エンタメ・知財法務
2025.11.04
漫画・同人誌の海外展開〜ライセンス契約の注意点〜

日本において、「漫画」は文化であり、世界中で人気を博しているタイトルが散見されます。
最近では、アプリ等で漫画や同人誌を閲覧できるサービスが多数存在し、海外展開のハードルが非常に低くなっています。
そのため、大手出版社に所属する作者さんに限らず、広く海外展開の道が開けており、最近では個人の作者さんが自ら海外展開を行うといったケースも出てきています。
本稿では、漫画や同人誌を海外展開する方法と、その際の契約書で注意すべき点を解説いたします。
CONTENTS
執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐
大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。
海外展開の方法
漫画・同人誌を海外展開する場合、原作のローカライズや、各国の表現規制に対応する必要がある上、販路を確保しなければなりません。
海外事業部等があり経験が豊富な大手出版社を除いては、自社や作者自身が上記全てを対応するというのは現実的ではありません。
したがって、多くの場合、海外展開を専門的に扱っている海外の企業に、一括してライセンスを行い、同社がローカライズ、表現規制への対応、販売(卸)等を行います。
ライセンス契約
ライセンス契約とは
漫画・同人誌は当然ながら著作物に該当し、作者に著作権が帰属します。また、作品によっては、商標権を取得している場合もあります。
ライセンス契約とは、これらの著作権や商標権等の知的財産権の使用を許諾するための契約です。
ライセンサー(権利者)は、ライセンシー(契約者)に対して、漫画・同人誌の複製、翻案、譲渡、公衆送信(ネット配信)等を許諾し、ライセンシーは、ライセンサーに職務著作料を支払うこととなります。
漫画・同人誌の場合、海外で生じた売上に一定のライセンス利用料率(例えば20%)を乗じた金額を、ライセンシーがライセンサーに支払う形式が広く採用されています。
作者側からすると、ライセンシーに必要な作業を全てお願いした上で、売上の一部の分配を受けることができ、逆にライセンシーは一部を作者に支払えば後の売上を自分の利益にできるので、正にwin-winな関係と言えるでしょう。
ライセンス契約の注意点
- 独占か非独占か
ライセンス契約は、独占的ライセンス契約と、非独占的ライセンス契約が存在します。
独占的ライセンス契約の場合、契約をした企業のみが作品を扱えることになるため、ライセンサー(権利者)は、他の企業へライセンスをすることができません。
他方で、非独占的ライセンス契約の場合、契約した企業以外にもライセンスをすることが可能です。
ライセンシー(契約者)側としては、力をいれて作品を海外で販売しようとすると、ローカライズや宣伝広告等、様々な労力・費用を投じることとなります。したがって、当然ながら、独占的ライセンス契約を締結したい立場にあります。
他方で、ライセンサー(権利者)からすると、一企業のみにライセンスをすると、当該企業の販売力が弱い場合、多くの利益を上げることができないというデメリットがあります。
ここは、日本における作品の人気度や、契約先企業の販売実績・実力などを踏まえて、慎重に判断する必要があります。 - 独占排他的なライセンス
また、独占排他的なライセンスというものも存在します。これは、権利者自身も販売ができないような内容の契約です。
例えば中国をライセンス地域とした独占排他的ライセンス契約を締結すると、権利者は他の企業に中国展開のライセンスをすることができない上、自らも販売できないことになります。
基本的に、海外展開を一任するのであれば、独占排他的ライセンスでも問題はありませんが、後述のように、若干注意すべき点が発生します。 - ライセンス地域
ライセンス契約では、必ずライセンス地域の指定がなされます。これはどこの言語にローカライズを行い、どこの地域で販売をするかを定めるものです。
ライセンシーも、アジア圏(中国、韓国、台湾等)を専門に扱っている業者や、EUを専門に扱っている業者、英語圏(アメリカ、イギリス、オーストラリア等)を専門に扱っている業者など様々です。
したがって、当該業者が得意とする地域に限定して、ライセンスをする必要があります。特に、独占的(独占排他的を含む)ライセンス契約を締結する場合は、地域が被ると、権利者側の契約違反となってしまうため、注意が必要です。 - 独占的or独占排他的ライセンス契約をする際の注意点
多くの企業が、独占的ライセンス契約の締結を求めてくる傾向にあります。自らローカライズや宣伝広告をする以上当然と言えば当然です。
ここで注意が必要なのが、地域の被りです。同人誌などの業界だと、日本のプラットフォームを通じて販売を行っているものの、プラットフォーム側のサービスで翻訳と海外配信がされているようなケースが存在します。
例えば、プラットフォームを通じて、韓国に既に配信がされていた場合に、ライセンシーと韓国を対象とした独占排他的ライセンス契約を締結すると、契約違反となる可能性があります。
また、独占的ライセンスの場合も、プラットフォーム側の規約次第では、権利者がプラットフォーム側にライセンスを提供していることとなっており、結果として、契約違反になる可能性があります。
この場合、当該プラットフォームを通じた販売については、独占権の範囲外として取り扱うことを、契約書に明記する必要があります。
国際契約の実務上の留意点
- はじめに
また、ライセンシー側の会社は、外国企業であることが多いです。
この場合、準拠法や、専属的合意管轄裁判所をどこに設定するかという、海外取引に共通する事項を検討する必要があります。 - 準拠法
準拠法とは、契約の解釈する際に用いる法律のことで、こちらとしては、日本法に準拠するのが一番有利な条件となります。海外の法律に準拠する場合、契約に関連して紛争が生じた際に、日本法ではなく、海外の法律に準拠して検討をする必要が生じる為、余計なリーガルコストがかかる可能性があります。 - 専属的合意管轄裁判所
専属的合意管轄裁判所とは、紛争が話し合いで解決できずに、訴訟となった際に、どこの裁判所に訴訟を提起するかを予め設定するものです。当事者は、原則、設定された裁判所以外に訴訟を提起することができなくなります。
これも、上記と同じ理由で、東京地方裁判所など日本の裁判所を合意管轄裁判所とするのが有利な条件となります。
なお、地方の裁判所は、海外の会社との紛争や、知的財産権に関する紛争に慣れていないため、通常よりも訴訟が長期化するなどの不都合が生じる可能性があります。したがって、東京地方裁判所に設定をするのが無難です。
注意が必要なのが、日本の裁判所を専属的合意管轄裁判所に設定した場合であっても、日本国内の判決に基づき、海外で強制執行ができない国が存在します。
代表的な例としては、中国、台湾、インド、ロシア、タイ、メキシコなどが挙げられます。
この場合、紛争となったら、訴訟ではなく、商事仲裁によって解決を図るという条文を置く必要があります。仲裁地をどこにするかは、上記と同様、東京にするのが有利な条件となります。 - 交渉について
準拠法や、管轄裁判所をどこにするのかは、パワーバランスなどによって変わってきます。権利者側が強ければ、日本に設定できるでしょうし、その逆も然りです。
通常は、権利者側の方がパワーバランスは上なので、積極的な交渉が適切です。なお、仮に、ライセンシー側が強い場合、こちらとしては、最低限第三者国に設定するのが安全です。よく使用される第三者国は、シンガポールです。法律面がある程度整備されており、政治的な影響を受けにくく、日本とも関係が悪くないというのが理由です。
まとめ
本稿では、漫画や同人誌の展開に関して、ライセンス契約の基本的な部分について解説をいたしました。実際の契約では、様々な条件が設定されており、広範囲な交渉が求められます。また、米国の著作権法における独占的ライセンスは、諸外国とは異なる取り扱いがされるなど、国によってもケアすべき点が異なってきます。
したがって、専門家に相談をした上で、契約書の内容を整えることが重要です。
弊所では、エンタメコンテンツ分野の海外展開支援に豊富な実績があり、企業様はもちろん、個人のクリエイターの方からのご相談もお受けしております。
契約書の作成、レビュー、交渉支援など、お気軽にお問い合わせください。













