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エンタメ法務(アプリ・ゲーム等)

2023.08.25

アプリ・ゲーム・ウェブサービスでポイントを発行したい〜ゲーム内通貨に関する資金決済法の対応 前払式支払手段とは?〜

近年、アプリゲームを中心に、ポイントを購入させて、マネタイズをする形態のサービスが多く見られます。

いわゆるゲーム内通貨、サービス内通貨などと呼ばれるもので、ジュエル、魔法石など、サービスの内容に応じた、多種多様なゲーム内・サービス内通貨が多く発行されています。

今回は、そういったサービスを展開する上で、必須となる、資金決済法の対応について、解説します。

CONTENTS

執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐

大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。

この記事を3行でまとめると・・・

資金決済法の解説

前払式支払手段に関する規制の解説

前払式支払手段を発行する際の注意点等の解説

資金決済法とは

資金決済法

資金決済法とは「資金決済に関する法律」のことで、簡単にいうと、資金決済に関する種々の規制や取り決めを定める法律です。

特に、ゲームやアプリ、ウェブサービスとの関係では、資金決済法の中の前払式支払手段の発行に関する規制をケアする必要があります。

前払式支払手段とは

前払式支払手段とは、一言で言うと、事前に対価を得て発行する、自社のサービスや他社のサービスで使用できる有償のポイントのことをいい、課金制のサービスに問い入れられるポイントや、ゲーム内通貨を意味します。

具体的には、次の4つの要件をすべて備えたもののことをいい、資金決済に関する法律(以下「法」という。)の適用を受けることになります。

 

(1)金額又は物品・サービスの数量(個数、本数、度数等)が、証票、電子機器その他の物(証票等)に記載され、又は電磁的な方法で記録されていること。

(2)証票等に記載され、又は電磁的な方法で記録されている金額又は物品・サービスの数量に応ずる対価が支払われていること。

(3)金額又は物品・サービスの数量が記載され、又は電磁的な方法で記録されている証票等や、これらの財産的価値と結びついた番号、記号その他の符号が発行されること。

(4)物品を購入するとき、サービスの提供を受けるとき等に、証票等や番号、記号その他の符号が、提示、交付、通知その他の方法により使用できるものであること。

(引用:一般社団法人日本資金決済業協会 https://www.s-kessai.jp/businesses/prepaid_means_overview.html )

 

その上で、前払式支払手段のうち、自社サービスに限って利用できるもの自家型の前払式支払手段と呼ばれるもので、第三者のサービスにも利用できるもの第三者型の前払式支払手段となります。

例えば、ゲーム内通貨は当該ゲームのみに使用できるので、自家型の前払式支払手段となり、クオカードや商品券のように、いろいろな店舗で利用できる通貨は第三者型の前払式支払手段となります。

第三者型の前払式支払手段を発行する場合は、財務局長等への登録が必要であり、厳格な要件が課されています。

詳細は割愛しますが、例えば、原則として、法人であってかつ純資産額が1億円以上であることなど、相当な財産的基盤が必要となります。

自家型前払式支払手段に関する規制等

自家型前払式支払手段の発行事業に該当する場合、主に、以下の規制を考慮する必要があります。

 

(1)情報の提供義務

利用者に対して、以下の情報を提供する義務を負います

①発行者の氏名、商号または名称

②利用可能金額または物品・サービスの提供数量

③使用期間または使用期限が設けられている場合は、その期間又は期限

④利用者からの苦情または相談を受ける窓口の所在地および連絡先(電話番号等)

⑤使用することができる施設または場所の範囲

⑥利用上の必要な注意

⑦電磁的方法により金額等を記録しているもの 未使用残高または当該未使用残高を知る方法

⑧約款等が存する場合には、当該約款等の存する旨

よく、ウェブサイトやアプリ上に、「資金決済法上の表示という規制を見かけることがありますが、これがこの情報提供義務を受けたものとなります。

 

(2)利用者保護措置に関する情報提供義務

①利用者資金の保全に関する事項の利用者への情報提供

・資金決済法第14条第1項の規定の趣旨(基準日における未使用残高の半分以上の額について保全措置が求められていること)及び資金決済法第31条第1項に規定する権利の内容(万が一の場合前払式支払手段の保有者は発行保証金について他の債権者に先立ち弁済を受けることができること)

・発行保証金の供託、発行保証金保全契約又は発行保証金信託契約の別及び発行保証金保全契約又は発行保証金信託契約を締結している場合にあっては、これらの契約の相手方の氏名、商号又は名称

後述の通り、前払式支払手段発行事業者は、未使用残高の半額を供託し、万一ゲームやサービスを終了させるような場合に、最低限半額は返金が実現するよう、保護が図られており、上記の情報提供義務は、それを明確に消費者に伝えることを求めたものです。

したがって、例えば、

「当社は、前払式支払手段廃止時に未使用の残高についての払戻しを行うことを確保するため、資金決済に関する法律に基づき、●●銀行との間で発行保証金保全契約を締結し、基準日未使用残高の半額を保全しています。万が一、当社が破産等した場合、当社に対する他の債権者よりも優先して、お客様が保有する前払式支払手段について払戻がなされる仕組みとなっています。」

といった文章を、サービス内に掲載する必要があります。

通常は資金決済法上の表示の中に組み込まれています。

 

②無権限取引が行われたことにより発生した損失の補償方針等の利用者への情報提供義務

無権限取引とは、利用者の意思に反して権限を有しない第三者が行う取引を意味し、例えば、不正アクセスやログインをして、勝手に前払式支払手段を使用するような場合のことです。これについて、補償をするのか、しないのか、するのであればどういった補償内容かを記載する必要があります。

自家型の前払式支払手段の場合、基本的には、補償をしないという取り決めにしている企業が多く、法的にはそれで問題ありません。

あくまで、補償の有無や内容を消費者に伝えれば足ります。

・前払式支払手段の発行の業務の内容に応じて、損失が発生するおそれのある具体的な場面毎の被害者に対する損失の補償の有無、内容及び補償に要件がある場合にはその内容

・補償手続の内容

・連携サービスを提供する場合にあっては前払式支払手段発行者と連携先の補償の分担に関する事項(被害者に対する補償の実施者を含む。)

・補償に関する相談窓口及びその連絡先

・不正取引の公表基準

 

(3)届出

資金決済法は、毎年3月末日と9月末日を基準日と定めており、当該基準日において、発行している前払式支払手段の未使用残高が、1000万円を超えたときは、自家型前払式支払手段の発行事業者として、財務(支)局長等への届出が必要となります。

 

(4)発行保証金の供託等と報告

前述の通り、毎年3月末日と9月末日時点の未使用残高が、1000万円を超えている場合、その未使用残高の2分の1以上の額に相当する額を最寄りの供託所に供託するか、金融機関等との間で、発行補償保全契約を締結するか、信託会社等との間で発行保証金信託契約を締結し、その旨を財務(支)局長等に届け出る必要があります。

これが最大の規制といえるもので、要するに、前払式支払手段の未使用金額の半額を供託するか、銀行と保証契約を締結する必要があります。

供託というのは、簡単に言えば、法務局にお金を持って行って、第三者(ここでいう消費者)のためにお金を預かってもらうということです。

面倒な手続きが必要になる上、売上の一部が使えない状態となるため、企業にとっては軽視できない規制となります。

また、発行保証保全契約等を締結すれば、供託のような手続きは不要ですが、銀行側の審査期間が長いという問題があります。

資金決済法上、未使用残高がいくらあるのか、またこれを供託したのか、あるいは発行保証保全契約を締結したのかを報告する必要がありますが、3月末日時点の数字を5月末日までに、9月末日時点の数字を11月末日までに報告する必要があるため、2ヶ月間の間で数字の集計と、契約の締結を行う必要があります。

これが意外とタイトなスケジュールとなり、特にGWを挟む5月末日までの報告については、銀行側のやりとりに時間がかかり、かなりギリギリになることも珍しくありません。

自家型前払式支払手段の該当

自家型前払式支払手段の該当性

自社サービスに限定したポイント・ゲーム内通貨であることを前提として、前述の通り、4つの要件を検討する必要があります。

(1)金額又は物品・サービスの数量(個数、本数、度数等)が、証票、電子機器その他の物(証票等)に記載され、又は電磁的な方法で記録されていること。

(2)証票等に記載され、又は電磁的な方法で記録されている金額又は物品・サービスの数量に応ずる対価が支払われていること。

(3)金額又は物品・サービスの数量が記載され、又は電磁的な方法で記録されている証票等や、これらの財産的価値と結びついた番号、記号その他の符号が発行されること。

(1)から(3)の要件は、要するに、ゲーム内通貨やポイントが「数量」として表現されており、それが対価に応じて発行されているか否かとなります。

100円で100ポイント、100個のゲーム内通貨100個など、数量に応じた金額が設定されていれば、いずれの要件も満たすことになります。

(4)物品を購入するとき、サービスの提供を受けるとき等に、証票等や番号、記号その他の符号が、提示、交付、通知その他の方法により使用できるものであること。

(4)の要件は、上記のゲーム内通貨やポイントが、使用できることです。

100ポイントでアイテムを購入できるとか、投げ銭ができるとか、ガチャを引けるとかなんでも良いので、サービス内で、数量に応じたサービスの提供を受けられる状態であれば、この要件を満たすこととなります。

また、上記とは別に、

(5)6ヶ月以内の使用期限が設定されていないこと

という要件が存在します。

前払式支払手段の該当性を否定するための6ヶ月制限

上記の通り、供託等の面倒な手続きが必要になるため、これを回避するというのも検討することとなります。

4つの要件については、課金制のポイントやゲーム内通貨を導入する限り、充足してしまうため、6ヶ月以内の有効期間を設けるという手段が考えられ得る唯一の手段といえます。

一見すると、簡単な話のようですが、iOSでの展開を想定したアプリではこの仕様を導入することができません。

これは、iOSに関する「App Store Review ガイドライン」3.1.1において、以下の規制が存在するためです。

(引用:https://developer.apple.com/jp/app-store/review/guidelines/

したがって、ウェブサービスであれば、6ヶ月の制限を設けてしまうという仕様を検討する余地がありますが、アプリサービスの場合は、諦めて、資金決済法を踏まえた対応を行う必要があります。

前払式支払手段を発行するための具体的な対応

資金決済法上の表示と雛形

前述した、情報提供義務を履行するために、資金決済法上の表示を設置する必要があります。

例えば以下のような内容となります。

※あくまで参考例文ですので、自己責任でご利用ください。

また、特殊な事情がある場合は専門家への相談をお勧めします。

2023年7月時点の情報ですので、法改正等があった場合は、記載内容に不足が生じる場合があります。

おまけや特典の配布、増量値引きの注意点/無償ポイントの発行

さて、通常のアプリゲームやアプリ・ウェブサービスの場合、1円1ポイントの統一料金に設定されていることはほとんどありません。

多くの場合、100円しか購入しないと100ポイント(1ポイント1円)だが、1万円買うと12000ポイント(1ポイント0.83円)といった形で、消費者の購入意欲を刺激する仕様となっています。

この場合、1ポイント1円のポイントと、1ポイント0.83円のポイントは別の前払式支払手段として整理されるため、システム上、それぞれのポイントの発行と使用を拾えるような仕様にして、報告の際に正確な数字が算出できるようにしなければなりません。

これは、かなり煩雑であり、特にもっと細かい料金区分を設ける場合、大げさにいえば、10種類以上の前払式支払手段を発行しているという整理になってしまう場合があります。(中には、それに対応したシステムを構築している企業もありますが、あまり現実的ではありません。)

そこで、無償のゲーム内通貨という概念が必要になります。

無償のゲーム内通貨であれば、対価性がないため、前払式支払手段には該当せず、自由に発行することができます。

いわゆる「詫び石」と呼ばれるようなものを配布したり、ログインプレゼント等を配布することが可能となります。

その上で、1万円を購入したら、1万ポイントと、2000無償ポイントがもらえるというような仕様にすることで、1ポイント1円という関係を維持しつつ、消費者の購入意欲を刺激することが可能となるのです。

ほとんどのサービスは、このような立て付けになっているように思います。

但し、この場合、消費者が保有している無償と有償を明確に区別する必要があり、例えばマイページ上で、

有償コイン 2438

無償コイン 1231

などと、区別して記載する必要があります。

ここの区別が曖昧である場合、法律上は、全てが前払式支払手段として扱われ、供託の必要が生じてしまい、目も当てられない状態となります。

参照:一般社団法人日本資金決済事業協会 「事業者のみなさまからよくあるご質問」

(引用:https://www.s-kessai.jp/businesses/faq_01_b_answer2.html

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は、ゲーム内通貨と前払式支払手段の内容等について、簡単に解説させていただきました。

あくまで、一般論となりますので、個別具体的な対応が必要となる場合があります。

特に、この種のサービスは、開発してから問題が発覚した場合、多額の費用を投じて作り直しが発生するといったリスクもございます。

実際に、これからゲームを開発する方や、ウェブサービスを始められる方は、弁護士等の専門家への相談をお勧めいたします。

 

弊所では、数十社以上のゲーム会社、ウェブサービス運営会社様のサポートをさせていただいており、これまでに、数多くのサービスのリリースに立ち会わせていただいております。

「これはできない」といった回答ではなく、「こうすれば実現できる」、「こうした方が売上の面でも良いのではないか」など、これまでの経験を踏まえ、個別の案件に応じた、対案の提示や、具体的なアドバイスを提供できるよう心がけております。

資金決済法以外にも、遵守すべき法律はたくさんございますので、お気軽にご相談いただけますと幸いです。

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