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エンタメ・知財法務

2025.10.17

メタバース時代における知的財産権の保護〜メタバースと著作権、意匠権、肖像権、パブリシティ権の考え方〜

近年、「メタバース」と呼ばれる仮想空間上のサービスが広まっており、メタバース上でのイベントや展示会の開催、各種商品の販売などが急速に広がっています。

エンタメ業界でも、アーティストのバーチャルライブや、人気キャラクターのアバター化といった事例が増えつつあります。

しかし、メタバースは現実世界の延長でありながら、法律上は「新しい形態の権利侵害」が起こりやすい領域でもあります。

今回は、メタバースにおける知的財産権などの基本的な考え方について解説します

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執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐

大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。

はじめに

メタバースとは

メタバースとは、インターネット上に構築された三次元の仮想空間のことで、ユーザーがアバターを介して交流・経済活動・創作活動を行う仕組みを指します。

語源は「meta(超越した)」と「universe(宇宙)」の造語で、1992年のSF小説「スノウ・クラッシュ」(ニール・スティーヴンスン著)で初めて用いられたと言われています。

今日では、ゲーム、ライブ配信、ショッピング、展示会などが行われる「常時アクセス可能な仮想社会」といった意味で使用されています。

現時点で、メタバースを直接規律する法律は存在しないため、既存の法律の適用・解釈によってメタバース内での法律関係を検討することとなります。

2023年5月に、「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議」が取りまとめられました(https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_wg/document/23-shiryou/s01.pdf)。

ここでは、メタバース空間内において、事業者等のみならず、ユーザー自らがワールドを構築し、多様仮想アイテム等を創作し、公開し、かつ販売が可能となっているサービスもあるため、現実世界の商品が、仮想空間内のバーチャル商品として販売されていることが問題視されています。

また、米国では、エルメスのバーキンを模した「メタバーキンズ」を販売した者が、商標権侵害で提訴されるといった訴訟も現実に発生しており、今後メタバース上での知的財産権に関する紛争は増えていくことが予想されます。

議論が尽くされていない分野ではありますが、メタバース上でどのように知的財産権の保護を図るべきか、また、最低限利用者や事業者が押さえておきたい権利関係をピックアップして解説します。

メタバースで問題となる主な権利

メタバース内で扱われるコンテンツには、現実世界と同様に様々な権利関係が問題となります。

・著作権:アバター、衣装、建築物、空間デザイン、音楽、映像などに発生する権利

・意匠権:物品や建築物のデザインを保護する権利

・商標権:商品・ブランドロゴやその名称を保護する権利

・肖像権:実在人物の顔や姿形を保護する権利

・パブリシティ権:実在の著名人の顧客誘引力を保護する権利

メタバースと著作権

メタバース上での建築物の利用と著作権

メタバース空間で、現実に存在する建築物を利用するケースが散見されます。例えば、著名な都市を再現したり(渋谷スクランブル交差点、竹下通り、歌舞伎町の街並みなど)、東京タワーなどの著名な建築物を利用するような場合です。

建築物は、必ずしも著作権で保護されるわけではありません。例えば住宅を考えた場合、入り口、窓、屋根など、ある程度実用に必要な構成要素が決まっているため、安易に著作権を発生させてしまうと、住宅が作れなくなってしまうためです。

もっとも、美的創作性の認められる建築物については、美術の著作物(著作権法第10条1項5号)として保護され、著作権が発生する場合があります。

したがって、著名な建築物を使用する場合は、基本的には管理者権利者の許諾を取るのが安全です。

また、東京タワー、スカイツリーなどの著名な建築物についても、これが美術の著作物に該当するか否かにかかわらず、管理者が存在し、商標権等も登録されているため、管理者の許諾を取るのが原則的な対応となります。

アバターや衣装の著作権

アバターや衣装は、著作物として保護される場合があります。

もっとも、衣装などの実用品については、本来著作物として保護される範囲は極めて限定的です。これは、建築物と同様に、同じような形になるのが当たり前であるため、著作物として保護するのが難しいためです。

したがって、現実世界で著作物に該当しない実用品は、バーチャル世界でも同様に考えるのが素直な解釈です。

しかしながら、メタバース上での衣装は、創意工夫を行い、一見して魅力的な衣装も多数存在する上、実際に着用するわけではないので、実用には向かないデザインも散見され、創作の自由度が無限に広がっています。その意味で、美的鑑賞の対象となる衣装として、著作物性が認められる衣装も多数存在するというのが筆者の考えです。

そのため、誰かが創意工夫を用いて創作したアバターや衣装であれば、著作物に該当すると考えるのが安全です。

なお、ユーザーが自作アバターをプラットフォーム上にアップロードする場合、サービス側の利用規約で、プラットフォームへの利用許諾が設定される条項も存在するため、二次利用や他のサービスへの持ち出しには注意が必要です。

逆に、事業者側からすれば、そのような規約を用意することにより、仮想空間での創作物を、事業者側で流用することが可能となったり、ユーザー間でのアバターや衣装の交換や流通が可能になるなど、サービスを盛り上げることが可能となります。

このあたりも、現実世界とは大きく異なる特徴の一つであると考えられます。

バーチャルライブと音楽の著作権

メタバース上のライブイベント等で音楽を使用する場合も、現実と同様に著作権の許諾が必要です。

JASRACやNexTone管理楽曲を演奏・配信する場合には、権利処理を行う必要があります。

また、楽曲の原盤の利用を行う場合は、原盤権者との間で、著作隣接権(レコード制作者の権利)の処理が必要となります。

また、海外ユーザー向けに開催をする場合は、国際的な著作権管理(CISAC加盟団体など)との調整も問題となります。

メタバース上の著作権は、現行法の枠組みで整理できる部分も多い一方、創作物の自由度や国境を越える配信など、現実とは異なる特有の論点も多い分野です。今後も法整備と実務の両輪で対応が求められるでしょう。

メタバースと意匠権

意匠権とは

意匠権とは、物品や建築物の形状・模様・色彩などの「デザイン」を保護する権利です。

これら物品の外観デザインを独占的に利用できる排他的な権利であり、特許庁への登録によって発生します。

従来は、「現実に存在する物体(立体)」を前提としていましたが、2020年の意匠法改正で保護対象が大きく拡張され、「画像」や「建築物」も登録が可能となりました。

この改正により、操作画面やUIなど、デジタル上のデザインも一定範囲で保護の対象となります。

物品等の意匠との関係

現行法の枠組みを前提とすると、メタバース上のデータに意匠権を及ぼし、デザインを保護することは難しいと考えられます。

意匠権が保護するのは、「現実世界に存在する物品又は建築物のデザイン」であり、第三者が権利者に無断で当該物品や建築物を製造・建築・使用・譲渡・貸与する行為を行った場合に侵害が成立します。

一方で、メタバース上のアバター空間データは、現実世界の物品や建築物とは明らかに機能や用途が異なり、さらに意匠法上の「業として」利用する要件を満たすかどうかも不明確なため、意匠権によるデザインの保護は困難といえます。

画像意匠との関係

前述の通り、2020年改正により、「画像意匠」も意匠登録の対象となりました。

もっとも、画像意匠は以下の2類型に限定されています。

①機器の操作の用に供されるもの(操作画像)

②機器がその機能を発揮した結果として表示されるもの(表示画像)

つまり、画像意匠が保護するのは「機械の操作」または「機能表示」に密接に関連する画像であり、

コンテンツにすぎない「仮装アイテム」について、画像意匠の権利を及ぼすことも難しいと考えられます。

模倣デザインへの現実的な対応

上記の通り、メタバース上のデザインを保護したい場合、意匠権だけでは十分ではありません。

このようなケースにおいては、現行法上、不正競争防止法による対応が現実的です。

具体的には、①「商品形態模倣」に関する規制、②「商品等表示」に関する規制を活用し、デザインの模倣行為に対して差止請求や、損害賠償請求を行うことが考えられます。

また、併せて、美術の著作物に関する著作権や、商標権を併用していくことが想定されます。その意味で、今後商標権の重要性は増していくのではないかと考えられます。

メタバースと商標権

メタバース上で、「伊勢丹」「ディズニーランド」といった施設名やロゴを使用する場合、商標権の許諾が必要となります。

施設名、商品名、ブランドなどを使用する場合に、商標権の権利処理が必要か否かは、特許庁が運営する公式データベースであるJ-plat pat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/というWebサイトで検索をすることが可能です。

使用した名称を入力して、商標のチェックボックスにチェックを入れた上で、検索をすると、同じ呼称で登録されている商標が検索できます。

(引用:独立行政法人工業所有権情報・研修館「特許情報プラットフォーム J-PlatPat」https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

したがって、他人の施設や商品のロゴや名称を使用する場合は、必ず商標権の有無を確認した上で、適切な権利処理が必要となります。

メタバースと肖像権/パブリシティ権

メタバースと肖像権

人は、「肖像権」という権利を有しています。

肖像権とは、自分の顔や姿態をみだりに撮影されたり、公表されない権利のことをいいます。

メタバース空間に、人の顔・姿態を反映させたアバターやキャラクターを登場させる場合、これを第三者が勝手に使用すると肖像権侵害となる可能性があります。

メタバースとパブリシティ権

パブリシティ権とは、俳優や芸能人などの著名人の肖像や氏名がもつ顧客誘引力から生じる経済的な利益・価値を、排他的に利用する権利のことをいいます。

肖像権という権利は、誰しもが保有している権利ですが、パブリシティ権については、顧客誘引力のある著名人の方の氏名や肖像にのみ発生する権利です。

要するに、芸能人の顔を用いたキャラクターやアバターの使用ができるサービスがあった場合、その芸能人のファンの方が利用してくれる可能性があり、経済的な利益が発生するため、そこには権利を認めてあげようという考えです。

したがって、事業者側は、サービス内のキャラクターやアバターに芸能人や著名人の肖像や名称を利用する場合は、肖像権とは別にパブリシティ権の処理をする必要があります。

まとめ

本稿では、メタバースと知的財産権の関係を中心に、現状の課題や権利保護の方法、実務上の注意点について解説しました。

メタバースに関する法制度は、いまだ発展途上にあり、今後の法改正や新たなガイドラインの策定が見込まれています。今後も最新の動向があれば、随時コラム等を通じて情報発信を行ってまいります。

また、近年はメタバースサービスを新たに立ち上げたいという事業者様からのご相談も増えています。弊所では、サービス設計・利用規約の作成をはじめ、メタバース上で発生した知的財産権に関する紛争対応まで、総合的なリーガルサポートが可能です。

メタバースに関する法務でお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。

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