エンタメ・知財法務
2025.10.18
オリパ事業の適法性〜適法な事業運営を行う上で注意すべきポイント〜

数年前あたりから、オリパの事業が増加しており、最近は当事務所への相談も増えています。
オリパとは「オリジナルパック」と呼ばれるランダム封入パックのことで、以前より、カードショップの実店舗で販売・提供されてきました。
近年は、インターネット上での販売が拡大しており、世界的にこの種の事業がトレンドとなっています。
オリパの中には、かなり高額な商品を封入しているケースも散見されるため、刑法上の「富くじ」や「賭博」の規制との関係や、景表法との関係が問題となりやすい領域です。
今回は、オリパ事業のスキームについて、注意すべきポイントを解説いたします。
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執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐
大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。
オリパとは
オリパとは、「オリジナルパック」と呼ばれる、ランダム封入パック商品のことで、通常、パックの中にパックの販売価格よりも、高額な商品が封入されています。
多くの場合、ポケモンカード、遊戯王カード、ワンピースカードなど、市場価値の高額なトレーディングカードゲームが対象となっています。
これらのカードゲームは、1枚数十万円程度のカードは珍しくなく、数百万円に上るカードも珍しくありません。中には、数千万円、数億円のカードも存在するから驚きです。
事業者は、カードパックを作成し、例えば一つの商品に数万口のクジを作成し、1個あたり数十円〜数百円程度で販売をします。中には、数千円、数万円程度の高額なクジも存在します。
消費者は、ランダムでガチャを回して、パックを購入することになります。最近では、当たったカードを、自宅に配送してもらうか、事業者が設定したポイントに還元して再度ガチャを回すか選択が可能なサービスが増えています。
オリパの法的リスク
はじめに
オリパは、高額な当たり商品を設定するクジを販売することになり、一定の射幸性も否定できないため、どうしても富クジ、賭博、景表法等との関係が問題となります。
比較的新しい分野であるため、行政からの発表や、事業が取り上げられて問題になったというケースは見当たりません。
ソーシャルゲームの際も、同じような流れがあり、一時ガチャが社会的問題となり、ゲーム事業者が集まってCESAやJOGAなどの業界団体を結成し、安全に遊べる環境の構築を目指し、新たな自主ルールが生まれるなどして今日に至ります。
例えば、確率表記を詳細に明記するといった対応や、コンプガチャを拡大して解釈し、自主的にルールを厳格に設定するなどの施策を行なってきた歴史があります。
オリパも、同様に、いずれ行政やマスメディアに取り上げられて、上記のような流れが発生する可能性がある分野といえます。
景表法との関係
景品表示法は、懸賞によって景品類を提供する場合、以下の通り、金額の上限規制を置いています。
一般懸賞規制 | ||
懸賞による取引額 | 景品類限度額 | |
最高額 | 総額 | |
5000円未満 | 取引価額の20倍 | 懸賞に係る売上予定総額の2% |
5000円以上 | 10万円 |
一昔前に、ゲームのガチャが景表法の景品規制に抵触するのではないかといった議論が起こったことがあります。
これは、ガチャで排出される高レアリティのアイテムが、0.1%といったかなり低確率に設定されていることに起因し、1回300円のガチャであれば、高レアリティのアイテムの価値は30万円相当であり、景表法の景品規制に抵触するのではないかという議論です。
しかしながら、ガチャで排出されるキャラクターやアイテムといったデータは、それ自体が商品であり、「景品類」には該当しないというのが、消費者庁の公式見解であることが発表され、この議論は収束に向かいました。
詳しくはこちらのコラム「アプリ・ゲームのガチャと景品表示法①〜景品規制の問題〜」で解説しているので、興味があればご確認ください。
オリパも上記と同様で、パックに封入されたカード自体が商品であり、「景品」とは評価できないため、景品表示法の景品規制には該当しないと整理して問題ないと考えます。
なお、表示規制(消費者の誤解を生じさせるような表示の規制)の問題は生じますので、事業者側は、商品の販売ページなどで消費者に誤解を生じさせないよう注意が必要です。この点は、ゲームのガチャと共通しますので、興味があれば、別コラム「アプリ・ゲームのガチャと景品表示法②〜表示規制の問題〜」を参照ください。
賭博との関係(1)賭博罪の要件
刑法は、賭博について、以下のように定めます。
第185条(賭博)
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
「賭博をした」とは、①偶然の勝敗に関して、②財物を賭け、③その得喪を争うことであり、全ての要件を充足する場合に成立します。
①偶然の勝敗とは、「当事者において確実に予見できず、又は自由に支配し得ない状態をいい、主観的に不確実であることをもって足りる」とするのが判例の立場です(大判大3年10月7日)。また、技量が関与しても、結果が偶然に左右される要素があれば賭博に該当すると解されています。
したがって、サイコロやトランプの他、麻雀、ポーカーなどについても、①の要件を満たすことになります。
オリパサービスは、完全に抽選方式であり、かつ、これに一定の金銭を支払うこととなるため、①と②は満たします。
そのため、「③その得喪を争う」といえるかが重要なポイントとなります。
得喪を争うとは、当事者双方が相互に財産上の利益を得たり失ったりする関係に立つことを意味します。わかり易くカジノを例にとると、お客さんが100円をかけて、勝てばお客さんは200円を持ち帰ることができ、カジノ側は100円損していることになるため、当事者双方の間に財産の得喪を争っている関係が成立します。
以下、段階を踏んで検討をします。
賭博との関係(2)市販の公式カードパックの整理
まず、市販の公式カードパックについて、賭博罪の観点からどのように評価されるかを確認しておきます。
市場には、様々なトレーティングカードが販売されています。最近ではNFTを利用したカードの販売などもされており、デジタルデータとしてのカードも流通している状況です。
トレーディングカードを例にとると、市販のカードパックでも、レアリティの高いカードが封入されており、ものによっては、数十万円の値段をつけるものも存在します。
消費者は、高レアリティカードを狙って、パックを購入するため、この場合も①偶然の勝敗に関して、②財物を賭けていると評価できそうです。
しかしながら、あくまで一次流通を行っている事業者(カードパックの製造・販売を行っている事業者)は、消費者が高レアリティカードを当てたからといって損をするわけではないため、③財産の得喪関係が生じないと考えられます。
また、一次流通事業者からすると、商品の製造・価格設定の時点で2次流通市場での金額を正確に予見することは不可能であり、商品の販売開始時点では、あくまで一次流通事業者が設定したカードパックの販売価格で価値を算定すべきであり、その意味で財産の得喪を争っているとはいえないという考え方もあり得ます。
いずれにしても、一次流通事業者の製造・販売するカードパックは、賭博罪の要件を欠きます。
賭博との関係(3)オリパの博該当性
それでは、オリパの場合はどうでしょう。
オリパは、市販の公式カードパックと異なり、二次流通市場にあるカードを仕入れて、カードパックを製造し販売しています。
その意味で、上記と同じ理屈で賭博罪該当性を否定することはできません。
他方で、例えばカードパックを100口作り、1個1万円で販売したとしましょう。この場合、売上は100万円で固定されます。
したがって、一人の消費者単位で見た際に当たりを引くかハズレを引くかというのは、事業者から見ればどうでも良く、事業者側は損をしていないと評価ができそうです。
この理屈を前提とすれば、オリパは賭博罪には該当しないという結論になるでしょう。
他方で、わかり易く、100個のうち1個あたりがあり、そのカードが99万円、他のカードが全部合わせて1万円の価値であった場合、1個目で当たりを引かれると、事業者は損失を被っているといえるので、賭博罪の成立が肯定されそうです。
どちらが正しい整理かは難しいところですが、消費者からあたりが引かれたのかわからない上、最近では「ラストワン賞」という形で最後を引くと特典がもらえる仕様が採用されており、これは景表法の景品規制を検討する必要がありそうですが)、全てのパックを売り切ることが前提となっているため、事業者側は損をしていないという整理に一定の説得力があり、事業者側としてはそういった整理をしていくことになるでしょう。
ここは、正直グレーな領域であり、できる限り社会的に非難され辛いような仕様を採用し、できるだけ賭博罪に該当しないと整理が可能なサービスの仕様にしておく必要があります。
なお、上記の他、そもそもカードの市場価格というのは、乱高下しているので、価格を設定することが難しく、財産の得喪について、立証が難しい=犯罪として立件するのにハードルがあるといった側面もあり、直ちにオリパを違法と評価するのは難しいように思います。
富くじの禁止
刑法は、賭博の他、富くじの販売を禁止しています。
(富くじ発売等)
第187条 富くじを発売した者は、二年以下の拘禁刑又は百五十万円以下の罰金に処する。
2 富くじ発売の取次ぎをした者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
3 前二項に規定するもののほか、富くじを授受した者は、二十万円以下の罰金又は科料に処する。
富くじとは、発売者がくじ札を発売することによって複数の者から金品を集め、①当該金品の所有権はいったん発売者に帰属した後、②抽選の方法によって当選者を決め、③落選者の損失負担によって当選者に利益を与えるが、発売者自身は、富くじ発売前の状態からすれば金品得喪の危険を負担していないようなものをいいます(大判大3年7月28日)。
賭博との違いですが、富くじは「不特定多数から金銭を集め、抽選によって一部に利益を配分するくじの構造」を処罰対象としていると整理すると分かりやすいです。
判例は、「富くじ(くじ札)の発行」を要するという立場であると理解されていますが、かなり古い判例のため、現代においては、インターネット上のくじも「富くじ」に該当し得ると考えられます。
その上で、オリパは、事業者が、全て商品を仕入れた後で(=事業者の危険負担)「くじ」が販売されるため、「落選者の損失によって当選者に利益を与える構造」(=落選者の危険負担)とはなっておらず、③の要件を満たさないと考えられます。
逆にいうと、カードを仕入れていないのに、オリパが購入されたあと、商品発送の段階で仕入れを行うようなサービス設計の場合、「富くじ」に該当するといった判断もあり得るので注意が必要です。
なお、上記はかなり古い判例であり、これに反対する立場の学説も存在するので注意が必要ですが、警察・検察からすると、かなり使いづらい条文であるため、いずれの解釈にたったとしても、富くじでの摘発のリスクは乏しいというのが筆者の考えです。
リスクを軽減するための仕様
様々な方策が考えられますが、例えば以下のような事項が検討要素となります。
①事業者自身がカードの買取を行わない
事業者自身が当たりカードの買取を行なってしまうと、自ら市場の価格を把握・設定していることになりますし、かつ、現金化が容易なサービスを提供していると受け取られてしまう可能性があります。
可能ならば、自らカードの二次流通市場に参入するようなサービスは避けた方が安全という印象です。
②消費者に損をさせない
消費者が購入する金額と同額程度の商品やサービスを保証すれば、消費者側が「財産を喪失」をしているとは言い難いため、賭博罪の成立にはさらにハードルが生まれることとなります。
まとめ
本稿では、最近流行しているオリパサービスの法的な整理を行いました。
まだまだ新しいサービスであり、摘発事例や、消費者庁からの通達等も見受けられないため、今後の動向に注意が必要な事業です。
弊所では、オリパ事業を始め、ガチャポンのオンラインサービス、クレーンゲームのオンラインサービスなど、ガチャや抽選を用いたサービスについても様々なご相談をいただいておりますので、法的なご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。