インターネット問題
2026.02.25
クリニックや病院が誹謗中傷・風評被害を受けたときの対処法について解説

インターネットはクリニックや病院の発信力を高めたり、予約が容易になったりというメリットがあります。
しかし一方で、事実無根の誹謗中傷や悪意のあるクチコミによる被害を受けることもあります。
誹謗中傷を放置することは、新規患者の減少を招くだけでなく、現在通院している患者に不安を与え、さらには勤務する医師や看護師の士気を低下させる原因にもなりえます。
今回はクリニックや病院が誹謗中傷・風評被害を受けたときの対処法について考えていきたいと思います。
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監修者プロフィール

弁護士法人LEON
弁護士 蓮池 純
発信者情報開示請求や著作権侵害等のインターネット問題に係る事案を多数担当し、
YouTuberやクリエイターの方々からもご依頼をいただいております。
私自身ゲームやアニメなどのエンタメが好きで、
大手エンタメコンテンツ制作会社の法務部へ出向していた経験もありますので、
エンタメ企業を中心とした企業法務にも注力しています。
クリニックや病院が誹謗中傷などを書き込まれたときの影響は?
現在の医療機関探しにおいて、もっとも影響力が強いと言っても過言ではないのが、Googleマップのクチコミ機能です。
多くの患者は、スマートフォンで近くの病院を検索し、そこに表示される星の数や体験談を参考にして受診を決定します。
Googleマップの評価は、検索結果の目立つ位置に表示されるため、ここに悪意ある投稿がなされると、ダイレクトに集客へ悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、退職した元職員による嫌がらせや、競合する他のクリニックによる組織的な低評価投稿の標的になることもあります。
Googleマップのクチコミは、検索エンジンの仕組み上、長期間にわたって残り続けるため、放置すると「この病院は評判が悪い」というイメージが固定化されてしまいます。
また、医療機関に特化した検索サイトや、患者の体験談を集めたクチコミサイトは、誹謗中傷の温床となることがあります。
たとえば、特定の治療方法に対する過度な期待を持った患者が、期待通りの結果が得られなかった際に、その不満を医療ミスとして投稿するようなケースです。
医療特化型のサイトでは、運営側が独自のガイドラインを設けていることが多いですが、それでも表現の自由や患者の知る権利という名目で、過激な記載が許容されている場合があります。
Googleマップ、医療機関の検索サイトの誹謗中傷まがいのクチコミはクリニックや病院が不利益を被る可能性が高いため、見つけた場合には、早期に対応すべきといえます。
違法になり得るクチコミの具体例
すべての批判的な書き込みに対して過剰に反応することは、かえって事態を悪化させる可能性があります。
正当な苦情や改善への要望と、法的な措置を講じるべき誹謗中傷を明確に区別する基準を持つことが大切です。
具体的には次のような書き込みがある場合、放置するリスクが高くなるためクリニックや病院として対処した方がよいといえます。
- 医師や看護師などへの誹謗中傷
- 施術や診断に対する不当なクチコミ
- 病院の社会的評価を著しく下げるような書き込み
医師や看護師などへの誹謗中傷
クリニックや病院が対処すべき書き込みとして、医師や看護師など特定の個人に対する人格否定や、名誉を著しく傷つける書き込みです。
「死ね」「消えろ」「クズ」といった、医師や看護師の能力・資質への批判を超えた人格否定がこれに該当します。
また、医療従事者の氏名、住所、家族構成などの個人情報を晒す行為も、深刻な権利侵害です。
これらの書き込みは、対象となった職員の精神的な健康を損なうだけでなく、職場全体に不安を蔓延させ、離職率が高くなったり、採用が決まらなかったりといった悪影響を及ぼす可能性があります。
職員を守ることは、病院の経営責任でもあります。
個人の尊厳を蔑ろにするような内容については、組織として即座に削除請求や法的措置を検討しなければなりません。
施術や診断に対する不当なクチコミ
医療行為の妥当性を、医学的な根拠なく否定し、医療機関の社会的評価を低下させる書き込みも対処の対象となります。
たとえば、「あの病院の治療は詐欺だ」「受けた手術のせいで体が動かなくなった(実際には適切な経過である場合)」といった、虚偽の事実や誇張された表現を含む投稿です。
医療は結果を100パーセント保証するものではありませんが、適切な手順を経て行われた診療に対して「ヤブ医者」といったレッテルを貼る行為は、名誉毀損にあたる可能性があります。
特に、不正な保険請求を行っている、あるいは医療ミスを隠蔽しているといった具体的な「犯罪的行為」を示唆する書き込みは、たとえ匿名であっても許されるものではありません。
病院の社会的評価を著しく下げるような書き込み
特定の個人や施術に限らず、病院全体の運営や体制について、事実を歪曲して非難する書き込みも誹謗中傷にあたります。
たとえば、「病院内が不潔で、器具を消毒せずに使い回している」「具体的な説明もなく高額な自由診療を受けさせられた」といった、医療機関の公共性や倫理性を疑わせる内容です。
これらの情報は、医療機関にとって致命的な風評被害を生みます。
現在、通院している患者が離れていくだけでなく、保健所への通報やマスコミの取材を誘発するリスクがあります。
また、求職者が病院名で検索した際にこれらの悪評がトップに表示されると、優秀な人材を確保する機会が失われる可能性も否定できません。
クリニックや病院の社会的評価を損なう書き込みについては、不特定多数に閲覧される期間が長くなるほど不利益を被る可能性が高くなるため、早期に弁護士に相談し、対応した方が良いといえます。
誹謗中傷のようなクチコミをされたときにしてはいけないこと
誹謗中傷を受けると怒りや悲しみなどの感情が生じがちですが、感情のままに反論や攻撃的な対応を行うことは避けてください。
問題の解決につながらないばかりか、事態を悪化させるおそれがあります。
また、誹謗中傷に対して、病院側が事実確認を行わず憶測で反論したり、逆に相手を誹謗中傷するような投稿を行うこともやめましょう。
このような行動をすると、かえってクリニックや病院側にとって不利益になる可能性がありますので注意してください。
クリニックや病院が誹謗中傷・風評被害などを受けたときの対処法
クリニックや病院が誹謗中傷や風評被害を受けた場合の対処法は以下があります。
投稿内容の事実確認を行う
クリニックや病院が誹謗中傷の疑いがある投稿をされた場合、最初に行うべきは、事実関係を確認することです。
書き込まれた内容が、いつの、どの患者の対応に関するものなのか、当時のカルテや受付記録と照らし合わせて確認します。
例えば、「待ち時間が長かった」という不満であれば、実際に当日の混雑状況はどうであったか、スタッフの対応に不備がなかったかを内部調査します。
もし、病院側の不備が事実であれば、それを認めた上で誠実に対応することが、被害の拡大を防ぐ有効な方法となることもあります。
一方で、全く心当たりのない内容や、明らかな事実誤認がある場合は、それを証明するための証拠を固めます。
投稿画面のスクリーンショットを保存し、URLや投稿日時、IDなどが明確に残るように記録しておくことが、後の手続において重要な証拠となります。
サイト運営者などに対する投稿の削除請求
事実確認の結果、投稿が不当であると判断された場合は、サイトの管理者や運営者に対して、投稿の削除を依頼することが考えられます。
GoogleマップやSNS、クチコミサイトの多くには、利用規約に違反する投稿を報告するための通報機能や問い合わせフォームが設置されています。
しかし、サイト運営者に対して、どの規約のどの条項に違反しているのか、具体的にどのような権利が侵害されているのかを説明しても、任意での削除には応じてもらえないケースがほとんどです。
運営側が削除を拒否した場合や、回答がない場合には、裁判所を通じた手続が必要になります。
弁護士に依頼するタイミングは?
弁護士に依頼するタイミングは、誹謗中傷や悪意のあるクチコミを発見した直後や運営元に問い合わせても削除してもらえなかったときなどが考えられます。
ネット上での情報の拡散は非常に速く、放置する時間が長くなるほど、病院の社会的評価に悪影響を及ぼす可能性が高いです。
また、投稿者の特定を目指す場合、プロバイダが保有するログの保存期間には限りがあり、数ヶ月が経過すると、証拠が消滅してしまい、法的な追及が困難になるリスクがあります。
経営への悪影響を抑えるためにも、まずは現状を相談し、専門的な見解を仰ぐことが重要です。
誹謗中傷を依頼された場合に弁護士が行うこと
クリニックや病院が誹謗中傷や風評被害を受けたときに弁護士へ依頼した場合、次のような対応を行うことができます。
裁判所に投稿の削除手続の申立てを行う
サイト運営者が任意の削除に応じない場合、弁護士は裁判所を通じて「削除仮処分」の手続を申し立てることができます。
これは通常の裁判よりも迅速に判断が下される仕組みであり、情報の拡散を止めるための緊急手段としてきわめて有効です。
裁判所が投稿内容を違法と判断すれば、サイト運営者に対して投稿の削除を命じる決定が出されます。
発信者情報開示請求を行う
クリニックや病院の誹謗中傷の投稿を削除しただけでは、投稿者が誰であるかは分からず、根本的な解決にはなりません。
投稿している者がモンスターペイシェントである場合、別のアカウントを作成して、粘着的に誹謗中傷を続けるケースも考えられます。
このような場合、弁護士は「発信者開示請求」を行い、投稿者を特定することができます。
投稿者が特定できれば、その人物に対して謝罪の要求や、今後一切の書き込みを行わないという誓約書の提出を求めることが可能となります。
ただし、特定までの過程には、プロバイダ側の通信ログの保存期間という制約があるため、被害に気づいたら速やかに弁護士に相談することが大切です。
損害賠償請求を行う
誹謗中傷などの書き込みを行った発信者が特定できた、あるいは相手が最初から判明している場合には、弁護士は損害賠償請求などの手段を講じることができます。
不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)は、誹謗中傷によって被った精神的苦痛に対する慰謝料や、業務への支障、ブランド価値の低下に対する賠償を求めるものです。
医療機関の場合、不当な書き込みのせいで患者数が減少し、具体的な売上が落ち込んだことを立証できれば、その営業損失の補填を認められる可能性もあります。
損害の立証には、投稿前の患者数と投稿後の推移を比較したデータなどが有用な証拠となりえます。
誹謗中傷を行った者に損害賠償を請求しても応じないときや、交渉が決裂した場合でも弁護士は、民事訴訟を申立て、争うことが可能です。
刑事告訴・被害届の提出を検討する
クリニックや病院に対する誹謗中傷の内容があまりに過激で悪質であり、もはや個人のトラブルの範疇を超えている場合、弁護士は刑事罰を求める手続を行うことができます。
クリニックや病院に対し罵詈雑言を浴びせる行為は侮辱罪、虚偽かどうかに関わらず、事実を摘示して社会的評価を著しく下げるクチコミは名誉毀損罪を問えることがあります。
さらに、嘘の情報を流して業務を妨害する行為は、信用毀損罪や偽計業務妨害罪になりえます。
処罰感情が大きい場合や被害が深刻な場合には、弁護士に相談することで、依頼者の方にとってよりよい結果につながる可能性が高くなります。
まとめ
今回はクリニックや病院が誹謗中傷・風評被害を受けたときの対処法について考えていきました。
クリニックや病院の評判を著しく貶めるような書き込みは早期に対処しないと、社会的信用を失ったり、経営リスクが発生したりすることがあります。
しかし、書き込みの削除や発信者の特定、損害賠償請求などの手続は複雑です。
お困りの場合にはSNSやインターネットなどの誹謗中傷トラブルに精通している弁護士へ相談することを検討してください。













