インターネット問題
2026.03.19
誹謗中傷は何罪?刑事と民事の責任をわかりやすく解説

現代社会において、インターネットやSNSは個人の表現活動や情報収集に欠かせないインフラとなりました。
しかし、匿名性の陰に隠れて他者を攻撃し、人格を否定するような誹謗中傷が深刻な社会問題となっています。
指先ひとつで送信された心ない言葉は、瞬く間に世界中へ拡散され、被害者の名誉やプライバシー、さらには生命さえも脅かす事態を招きかねません。
自由な発言が認められている一方で、他者の権利を不当に侵害した場合には、相応の重い法的責任を負うことになります。
今回は、成立し得る具体的な罪名や罰則、民事上の賠償請求の仕組み、そして解決に向けた実務的な手順について詳しく解説します。
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監修者プロフィール

弁護士法人LEON
弁護士 蓮池 純
発信者情報開示請求や著作権侵害等のインターネット問題に係る事案を多数担当し、
YouTuberやクリエイターの方々からもご依頼をいただいております。
私自身ゲームやアニメなどのエンタメが好きで、
大手エンタメコンテンツ制作会社の法務部へ出向していた経験もありますので、
エンタメ企業を中心とした企業法務にも注力しています。
誹謗中傷において問われる刑事責任
インターネット上などで他人を攻撃した場合、次のような犯罪に該当し、警察の捜査対象となる可能性があります。
名誉毀損罪(刑法230条1項)
名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する犯罪です。
ここでいう名誉とは、人が社会から受けている客観的な評価(外部的名誉)を指します。
成立の要件として重要なのが、公然性と事実の摘示です。
公然性とは、不特定または多数の人が認識できる状態にあることを意味します。
インターネット掲示板やSNSへの投稿は、世界中の誰もが閲覧できる状態にあるため、基本的にこの要件を容易に満たします。
また、摘示される事実は、その内容が真実であっても虚偽であっても、名誉を傷つけるものであれば罪になり得ます。
たとえば、特定の人物の過去の不祥事や私生活上の不倫、あるいは勤務先での不正行為などを具体的に書き込む行為が該当します。
罰則は、3年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金と定められています。
名誉毀損罪には、公共の利害に関する事実であり、かつ専ら公益を図る目的でなされた場合、その内容が真実であると証明されれば罰せられないという例外規定も存在しますが、私的な恨みによる攻撃ではこの適用は認められません。
侮辱罪(刑法231条)
侮辱罪は、事実を摘示せずに、公然と人を侮辱した場合に成立します。
名誉毀損罪との決定的な違いは、具体的な根拠(事実)を示しているかどうかという点にあります。
たとえば、特定の人物に対して、バカ、無能、死ね、あるいは容姿を蔑む言葉など、具体的な出来事を挙げずに抽象的な罵詈雑言を浴びせる行為がこれに当たります。
かつて侮辱罪の罰則は、拘留または科料というきわめて軽いものでした。
しかし、SNSでの誹謗中傷を苦にした悲劇的な事件が相次いだことを受け、抑止力を高めるために令和4年7月から大幅に厳罰化されました。
現在の罰則は、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料へと引き上げられています。
これにより、以前は難しかった悪質な事案に対して、捜査機関がより積極的に介入できる環境が整えられました。
言葉により、他人の心を破壊する行為に対し、国家は以前よりも厳しい姿勢で臨むようになっています。
信用毀損罪(刑法233条前段)
信用毀損罪は、虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて人の経済的な信用を傷つけた場合に成立します。
ここで守られるべき信用とは、人の支払能力や、提供される商品・サービスの品質に対する社会的な信頼を指します。
たとえば、特定の飲食店に対して、あの店は産地偽装をしている、あるいは保健所から指導を受けたといった嘘の情報をネット上に流す行為がこれに該当します。
また、倒産寸前であるといったデマを流して、銀行融資や取引に支障をきたさせることも罪になります。
罰則は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
企業のブランドイメージを毀損させる行為は、個人の名誉毀損以上に経済的な損失が大きくなることが多いため、厳格な処罰の対象となります。
客観的な根拠のない「嘘」を広める経緯そのものが、法的なリスクを孕んでいます。
偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪(刑法233条後段・234条)
他人の業務を不当に妨害した場合に成立する犯罪です。
誹謗中傷の文脈では、嘘の情報を流して相手を困らせる偽計業務妨害と、強い言葉や脅しで相手を委縮させる威力業務妨害が問題となります。
たとえば、病院や店舗に対してネット上で不当な悪評を大量に書き込み、その対応のために通常業務を停止させた場合や、予約システムに虚偽の注文を繰り返して営業を妨げた場合などが該当します。
また、SNSでの誹謗中傷があまりに過激で、被害者が身の危険を感じて出社できなくなったり、店舗の営業を自粛せざるを得なくなったりした場合も、業務妨害と見なされます。
罰則は、いずれも3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
正当な権利行使としてのクレームの範囲を逸脱し、相手の生活の糧である仕事を妨害する行為は、法によって厳しく禁じられています。
脅迫罪(刑法222条)
相手を脅すような内容の書き込みは、脅迫罪を構成します。
具体的には、本人やその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し、危害を加える旨を告知することが要件となります。
たとえば、お前の家を特定した、夜道に気をつけろ、あるいはネット上に恥ずかしい写真をばらまくといった内容が典型です。
実際に危害を加えるつもりがなくても、相手が恐怖を感じるような表現を用いれば、その時点で犯罪は成立します。
罰則は、2年以下の拘禁刑、または30万円以下の罰金です。
誹謗中傷がエスカレートし、相手の安全を脅かす段階に至れば、直ちに警察による緊急性の高い対応が検討されることになります。
名誉毀損罪と侮辱罪の具体的な境界線
誹謗中傷の事案において、もっとも頻繁に問題となるのがこれら2つの罪の区別です。
法的な責任を追及する過程において、どちらの罪を構成するのかを見極めることは、告訴状の作成や賠償額の算定において重要性が高い作業となります。
判別基準の中心にあるのは、具体的な事実を摘示しているかという一点に集約されます。
名誉毀損罪が成立するのは、真偽の確認が可能な情報を提示した場合です。
たとえば、「○○氏は会社の金を横領している」、あるいは「△△さんは不倫をして子供を捨てた」といった書き込みです。
これらは、通帳の記録や目撃証言などの証拠によって、その事実があったのかなかったのかを客観的に証明することができます。
このような具体的な情報を提示して、その人の社会的地位を貶める行為が名誉毀損です。
一方で、侮辱罪は、そうした具体的な根拠を示さない場合です。
たとえば、「キモい」、「クズ」、あるいは「ゴミ」といった抽象的な蔑称を並べる行為です。
これらは発信者の主観的な感情の表明であり、真偽を確かめるべき事実が含まれていません。
ただし、具体的な事実がないからといって罪が軽いというわけではなく、近年の法改正によって侮辱罪も拘禁刑(懲役刑)の対象となったことで、両者の処罰の差は縮まりつつあります。
一連の投稿の中で事実の摘示と抽象的な罵倒が混ざっている場合には、より重い名誉毀損罪として一括して扱われることもあります。
どちらに該当するかを判断する段階では、投稿の文脈全体を精査し、一般の読者がその投稿からどのような具体的な状況を想起するかという視点が求められます。
誹謗中傷を受けたときの民事責任は加害者が被害者の損害を回復することにある
刑事責任が加害者への罰を目的とするのに対し、民事責任は被害者が被った精神的・経済的な損害の回復を目的としています。
被害者は、民法709条および710条に基づく不法行為責任を追及することで、金銭的な賠償や名誉の回復を求めることができます。
具体的に確認していきましょう。
損害賠償請求
誹謗中傷により精神的な苦痛を受けた場合、被害者の方はその損害を金銭に換算して慰謝料を請求することができます。
慰謝料の額は、投稿の内容、拡散の範囲、被害者の職業や社会的地位、そして嫌がらせの期間などを総合的に考慮して決定されます。
一般的な個人の場合、慰謝料の相場は数十万円程度とされることが多いですが、著名人や企業に対する悪質な書き込みであれば、数百万円単位の賠償が命じられることもあります。
また、損害賠償には、慰謝料だけでなく、実損害の補填も含まれます。
たとえば、誹謗中傷によってうつ病を患い、仕事を休まざるを得なかった場合の休業損害や、治療費などがこれに当たります。
さらに、現代のネットトラブル対応においてきわめて重要性が高いのが、発信者の特定に要した費用の請求です。
匿名の相手を特定するためには、後述する発信者情報開示請求を行う必要があり、これには多額の弁護士費用や調査費がかかります。
裁判所は、名誉毀損等の不法行為が認められる場合、この特定費用の全額または相当額を加害者に負担させる判断を下す傾向にあります。
加害者は、たった数行の書き込みの代償として、多額の現金を支払うという経緯を辿ることになります。
名誉回復措置
金銭の支払いだけでは被害者の名誉が十分に回復されないと判断される場合、裁判所は加害者に対し、名誉を回復するための適当な措置を取るよう命じることができます(民法723条)。
もっとも代表的な例が、謝罪の掲載です。
誹謗中傷が行われた掲示板やSNSの同じ場所に、事実に反する投稿であったことを認め、謝罪する文章を掲載させます。
また、事案によっては、新聞の全国紙や地方紙に謝罪文を載せるよう命じられることもあります。
謝罪広告の費用はすべて加害者が負担しなければならず、高額なコストを要するため、加害者にとっては極めて重い心理的・経済的制裁となります。
被害者にとっては、自身の潔白を公に証明し、歪められた社会的なイメージを修正するための重要な段階となります。
送信防止措置請求(投稿の削除)
損害賠償とは別に、現在もネット上に残っている有害な情報を消し去るための手続きです。
情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に基づき、サイト運営者やサーバー管理会社に対して、投稿の削除を求めます。
運営者が任意で削除に応じない場合には、裁判所に削除の仮処分を申し立てる手法が取られます。
情報の拡散を食い止めるための初期の対応として、削除請求は最優先で行われるべき一連の作業となります。
刑事告訴と民事請求の相互作用と戦略
誹謗中傷の被害に遭った際、刑事と民事のどちらの手続きを優先すべきか、あるいは両方を同時に進めるべきかは、解決の目的によって異なります。
これらの手続きは独立したものですが、実務上は互いに深く関連し合っています。
刑事告訴を行うメリットは、捜査機関の強力な権限を活用できる点にあります。
警察が事件として受理すれば、ログの差し押さえや家宅捜索、通信記録の解析などが行われ、個人では困難な証拠の収集が進められます。
加害者が特定され、検察官によって起訴される、あるいは取り調べを受ける過程で、加害者側には強い心理的圧力がかかります。
ここで重要となるのが、示談の存在です。
加害者は、刑事罰を軽くしたい、あるいは前科を避けたいという動機から、被害者に対して示談を申し出ることが多々あります。
示談交渉において、被害者は民事上の賠償金に上乗せした金額を受け取るとともに、今後二度と関わらないという誓約をさせるなどの条件を提示できます。
刑事手続きを背景にすることで、民事上の賠償交渉が非常にスムーズに、かつ被害者に有利な条件でまとまる可能性が高まります。
一方で、民事手続きのみを先行させる場合には、相手方の財産を差し押さえるなど、実利の確保を迅速に目指すことができます。
どちらの手順がいいのかは、投稿の悪質性や証拠の状況、被害者の処罰感情など、状況にもよるため、弁護士に相談した方が良いといえます。
まとめ
今回は、インターネット上の誹謗中傷における刑事および民事の責任範囲などについて解説しました。
誹謗中傷は、被害者の尊厳を著しく失わせるものです。
しかし自力で対応すると、かえって誹謗中傷がひどくなってしまうこともあります。
弁護士は、刑事や民事の両面において、被害者の方にとって最大限被害回復ができるように弁護を行います。
お困りの際には弁護士に相談することを検討してください。













