インターネット問題
2022.08.04
X(旧Twitter)における削除請求
X(旧Twitter)は、全世界に数億人のアクティブユーザーがおり、日本でも数千万人が利用している巨大なSNSであり、その分、誹謗中傷の相談が最も多い媒体の一つです。
X上の誹謗中傷被害は、誹謗中傷の投稿、著作権侵害、肖像権侵害、なりすましアカウントの出現等、多岐にわたります。
今回は、被害に遭われた際に、投稿やアカウントを削除することができるのか、また、その方法について、解説いたします。
CONTENTS
執筆者プロフィール
弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐
大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。
任意の削除申請
まず、X上の投稿を削除するためには、Xの機能を利用した削除申請が可能です。
ポストの右上に記載されている「・・・」を押して、「ポストを報告」を選び、該当する項目を選択していくと完了します。
また、アカウント自体に対する違反報告等も可能となっており、詳しくは、ルールとポリシー(https://help.twitter.com/ja/rules-and-policies/twitter-report-violation#specific-violations)から確認可能です。
さて、この任意の削除請求ですが、かなり厳格な運用となっているようで、なかなか投稿を消してもらえないのが実情です。
米国企業に特に顕著な特徴ですが、表現の自由を重視するため、「よっぽどひどい場合」に削除してくれる程度のもので、あまり役に立たないというのが正直な感想です。
以前、本名、勤め先、顔写真を掲載した上で、「この人は不倫しているクソ女だ」といった投稿がなされた事案について、任意の削除請求をしたところ、一向に削除してもらえませんでした。また、風俗で働いていたこと、顔写真、本名を記載した投稿も削除してもらえませんでした。
他方で、思ったより簡単に削除してくれる場合もあるので、正直中の運用がどうなっているのかはよくわかりません。
この任意の削除請求ですが、Xのポリシーに違反しているか否かが問題となり、私の経験上、自分でやっても、弁護士を介してやっても、結果に変わりはないように思います。
したがって、任意の削除請求を弁護士に依頼するというのは、コストを考えると、お勧めできません。
弊所では、まずは、自分で任意の削除請求をしてみて、投稿が消えなかったら、弁護士を介入させて裁判をしましょうとご案内しています。
ただ、開示請求を同時に行う場合は、アカウントが凍結された場合に、期間制限が生じるといった問題があるため、その場合は、任意の削除請求は行わずに手続きに入ることもあります。
削除の仮処分申立て
任意削除で消してもらえない場合は、いよいよ裁判手続きが必要となります。
具体的には、仮処分決定の申立てを行います。仮処分決定というのは、簡単にいうと通常の裁判をしている時間はない事案について、早急に仮の決定をもらって、申立て内容(今回で言えば削除)を実現させる手続きです。
相手方は、XCorp.(旧Twitter,Inc.)という米国カリフォルニア州の企業となります。
米国企業に仮処分を申し立てる場合、原則として、申立書等の海外送達が必要となり、かつ、申立書その他の書面について、英訳が必要となります。
海外送達には、非常に時間がかかり、手間暇がかかります。
ただ、Xは良心的な企業で、日本国内に代理人予定者となる法律事務所が存在し、そちらに送付を行うと、時間の短縮が可能です。また、英訳が必須でない場合があります。ただ、これはあくまで法律事務所が善意で対応してくれているため、全ての案件で対応してもらえるかは不明です。
裁判手続きの削除基準
裁判手続きでは、裁判所の判断で削除するか否かが決まりますので、Xの任意削除の場合と異なり、削除できる対象がかなり広がります。
また、任意での削除申請では削除してもらえなかった事案でも、仮処分決定の申立てをした場合は、X側の弁護士の見解が示されるため、申立てをした結果、裁判所の判断を待たずに、すぐに任意で削除に応じるといったケースも多いです。
X側も、意地悪で任意の削除を認めていないのではなく、利用者や違反報告が膨大に存在するため、ある程度厳格な基準で画一的に削除申請に対応し、裁判手続きとなった場合は、弁護士を介して違法性等が精査できるため、柔軟に削除対応が行えるのだと思われます。
どんな場合に削除できるか
基本的には、権利侵害が認められる場合であり、主に、名誉権侵害、名誉感情侵害(侮辱)、肖像権侵害、プライバシー権侵害といった、人格権と呼ばれる権利の侵害です。
著作権侵害や、営業権侵害は、仮処分による削除が認められるかは疑義があり、実務上は認められない傾向が強いです。
これは、仮処分において、保全の必要性といって、「普通の裁判ではなく、急いで消さなければならない」といった事情が要求されるところ、上記で挙げた名誉権といった人格権侵害は、早急に削除しないと、被害が拡大する一方ですが、著作権侵害や、営業権侵害は、最終的には裁判で対応すれば間に合うのではないかといった発想に基づきます。
何を削除できる?
それでは、どこまで削除できるのでしょうか。
まず、当然ながら、ポストの削除が可能です。
また、アイコン画像によって肖像権侵害が認められる場合、アイコン画像の削除が可能です。
また、プロフィール部分も文章を書けるため、誹謗中傷が可能であり、ここの削除も可能です。
さらに、中には、アカウント名やユーザー名と呼ばれる部分において、誹謗中傷を行うケースも存在し、こちらを削除することも可能です。例えば「法律太郎@sagishi-yakutyuu」のようなアカウントです。
よく問題となるのは、アカウント全体の削除でして、これが結構な論点になるため、次の項目でお話しします。
アカウント全体の削除
アカウント全体の削除についても、理論的には可能です。
これをやりたいというケースは、もっぱら特定人を誹謗中傷するためのアカウント(例えば先ほどの「法律太郎@sagishi-yakutyuu」において、法律太郎さんをひたすら誹謗中傷しているようなケース)や、なりすましアカウントです。
もっとも、Xでは、様々な情報を発信できるため、誹謗中傷とは全く関係がないポストが含まれていることも多く、アカウント全部を削除するというのは結構なハードルがあります。
X側も、ここはかなり争ってくるため、簡単にアカウントの削除が認められるものではありません。
この点に深く言及した裁判例として、さいたま地裁平成29年10月3日判決があります。
同判決は、なりすましアカウントについて、
「アカウント全体が不法行為を目的とすることが明白であり、これにより重大な権利侵害がされている場合には、権利救済のためにアカウント全体の削除をすることが真に止むを得ないものというべきであり、例外的にアカウント全体の削除を求めることができると解するのが相当である。」として、アカウント全体の削除を認めました。
ただし、この判決は、まだ実務に大きな影響を与えたとは言いがたく、この主張をするとなると、相当の覚悟を持って、X側と戦っていくことになります。
通常、削除請求は開示請求とあわせて行うため、時間的な制約があり、この論点を大々的に争っていくことは難しいという現状もあります。
アカウント全体の削除をしたい場合は、以下のいずれかの方法が考えられます。
①アカウントのアイコンや、アカウント名やユーザー名の権利侵害を主張し、そこの削除を認めさせる。
アイコン画像やアカウント名、ユーザー名等が消えた場合、アカウントが凍結される可能性が高いです。そこのみを消すというのが、Xの仕様上難しいのかもしれません。
②開示請求と削除請求を別個に申し立てて、削除請求のみ時間をかけて上記の主張を展開する
開示請求の時間制限はどうにもならないので、最初から別個に申し立てるということもあり得ます。一度そのような方法でやってみたことがありますが、途中でアカウントを凍結してくれました。
③X(旧Twitter)のアカウント凍結に期待する
大量の投稿を対象としたり、アカウント全体がひどい状況だといった主張をしていくと、X側が任意でアカウントを凍結してくれる場合があります。
X(旧Twitter)における削除の注意点
ポスト等の削除や、アカウントの凍結については、実は完全に削除されているわけではなく、日本国外からは見れてしまう場合があるという問題があります。
日本国内で検索結果に出てこなければ問題ないでしょうけれど、キャッシュの削除、検索結果の削除等、別個の対応が必要となる場合もあります。
最後に
Xに対する裁判手続きは、申立ての方法や、送達の方法、X側の出方や、Xの仕様上の制約等を踏まえて、適切な主張をしていく必要があるため、経験豊富な弁護士に相談することが重要です。
当事務所では、X上の誹謗中傷事案について、数百件の対応実績がありますので、X上の誹謗中傷でお困りの方は、お気軽にご相談ください。