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エンターテイメントに関する法務や、インターネットトラブルについて、実務を交えて随時コラムを更新しております。
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インターネット誹謗中傷

2022.08.04

ネット誹謗中傷と同定可能性

インターネット上で誹謗中傷をされた場合、発信者情報開示請求を行い、投稿者の氏名・住所等の情報を入手し特定した上で、損害賠償請求を行うのが通常の流れです。

投稿者を特定するためには、当然、誹謗中傷によって、自分の権利が侵害されたことを立証する必要があり、その投稿が誰に向けられたものなのかという点が問題となります。

その投稿が誰に向けられたものなのか、つまり、投稿の対象者が自分であると「同定可能であるか」、これが所謂「同定可能性」の問題となります。

弁護士によっては、同定可能性を厳格に考え、「本名の記載が必須である」といった助言をすることがあると、依頼者の方から聞いたことがあります。

しかしながら、裁判実務上同定可能性はかなり広く認められており、主張や立証次第では、本名の記載は必ずしも必要ではありません。

インターネット上においても、様々な情報が混在しており、今回は、同定可能性について、よくあるケースなどを踏まえて、実務上の運用について説明します。

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執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐

大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。

同定可能性とは?

同定可能性とは、端的に言えば、インターネット上でなされた投稿が、誰に向けられたものなのか判定できるかという問題です。

例えば、以下の事例を考えてみてください。

本名:法律花子
ツイッターアカウント名:hanahana123
源氏名:華

「法律花子さんは違法薬物を使用している」という投稿があった場合、その投稿は法律花子さんに向けられたことは明らかですので、同定可能性は認められるということになります。

※厳密にはその法律花子さんが同姓同名の他人ではないかという点を排除する必要がありますが、基本的には、掲示板のスレッドタイトルや、他の関連する投稿、添付されている写真やアカウント等の事情から、本名が記載されている場合は、ほとんど全ての案件で、同定可能性が認められます。

では、以下の場合はどうでしょうか。
「hanahana123は違法薬物を使用している」
「華は違法薬物を使用している」

これだと、直ちに、この投稿を見た閲覧者が、法律花子さんが違法薬物を使用しているとは認識できませんので、同定可能性が認められるのかという点が問題となります。

名誉毀損と侮辱に関する同定可能性の違い

名誉毀損とは、人の社会的評価を低下させるような事実を摘示することを意味します。
先の例ですと、「違法薬物を使用している」という事実は、その人の社会的評価を低下させますので、名誉毀損の投稿となります。

他方で、侮辱とは、人の名誉感情を侵害する表現であり、わかりやすく言えば、「人を傷つける、程度のひどい悪口」です。
「ブスでデブで価値がない」などと記載すれば、名誉感情の侵害といえるでしょう。

名誉毀損の場合、人の社会的評価の低下が問題となるので、投稿が誰に向けられたものかというのが、一般の閲覧者において明らかであると言える必要があります。

他方で、侮辱の場合は、社会的評価は問題とならず、被害者の名誉感情が侵害されたか否かが問題となるので、「投稿が誰に向けられたものであるか、一般の閲覧者において明らか」であるか否かは関係がなく、「対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得る」と解されています。もちろん、勝手に自分に対する表現だと認識できれば足りるわけではなく、自分に対する表現であると考えたことについて、合理的な説明が要求されます。

福岡地判令和元年9月26日 判時2444号44頁

名誉毀損は、表現行為によってその対象者の社会的評価が低下することを本質とするところ、社会的評価低下の前提として、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とするのに対し、名誉感情侵害はその性質上、対象者が当該表現をどのように受け止めるのかが決定的に重要であることからすれば、対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得ると解するのが相当である。

したがって、名誉毀損の場合は、厳格な同定可能性が要求されますが、侮辱の場合はそうではなく、両者の同定可能性に関する判断は異なることとなります。

アカウント名と同定可能性

非常に多いご相談として、Twitterのアカウント名や、ゲーム内のアカウント名等、一定のサービス内で使用しているアカウント名等の情報を使用した誹謗中傷が挙げられます。
当然アカウント名に本名を使う人はほとんどおらず、本名とは全く関係ない名称を使用している場合がほとんどでしょう。

では同定可能性は認められるでしょうか。

(1)侮辱について

まず、侮辱に関しては、自分がそのアカウント名で活動しているのだという証拠を提出することにより、「合理的に自分に向けられた投稿であることの説明」が達成されます。

結論から言うと、多くの場合で認められます。

まず、前提として、「hanahana123」が自分のアカウントのことであるという説明が必要です。
例えば、掲示板の誹謗中傷であれば、スレッドのタイトルが、hanahana123に関するもので、かつ、hanahana123のアカウントのURL が他の投稿で掲載されていれば、その掲示板上で書かれているhanahana123は自分のアカウントのことであることが明らかであるといった説明です。

他にも、ゲームのギルドやチーム名が記載された掲示板で、hanahana123と記載されている場合、当該ギルドやチームにhanahana123というのは一人しかいないため、hanahana123は自分のアカウントのことであるといった説明が可能でしょう。

Twitterで言えば、hanahana123のアカウントに対するリプライや、同アカウントのツイートを引用リツイートするような形で誹謗中傷がされることも多く、その場合も一発でhanahana123は自分のアカウントのことだと説明が可能です。

次に、hanahana123のアカウントを運用しているのは自分なのだという説明が必要です。

これについては、例えば、Twitterの管理画面や、ゲームアカウントの管理画面、YouTuberの管理画面など、様々な証拠が考えられます。

要するに、管理者以外にはアクセスできないページや、管理者でなければ表示されない情報等が記載されているページを印刷すれば、それは管理者にしかできない行動であるから、この人が管理者に間違い無いという立証が可能です。

例えば、Twitterの場合、通常、他人のアカウントのページをひらくと、アイコンの横に「フォロー」又は「フォロー解除」という項目が表示されますが、自分のアカウントをひらいた場合は、「プロフィールを編集」という項目になり、それ故、自分のアカウントであることを立証することが可能です。

したがって、①hanahana123が自分のアカウントのことを意味しており、②自分がhanahana123のアカウントを管理しているのであるという2点をクリアできれば、基本的には同定可能性は認められます。

(2)名誉毀損について

名誉毀損については、さらに踏み込んで、hanahana123というのが、法律花子のことを意味するのだということが、一般の閲覧者において判断可能であるといった主張が必要です。

ここで、閲覧者が法律花子という名前の人だということを知っている必要はなく、その媒体を閲覧するに際して前提知識を有している閲覧者が、「あの人のことね」という程度に顔が思い浮かべば、十分社会的評価が低下すると言えるでしょう。

したがって、例えば、アカウントにおいて、自分の顔写真をプロフィールに設定している場合や、実在の自分とアカウントの結びつきを知っている人がたくさんいるのだという証拠を提出できれば、名誉毀損における同定可能性も認められる方向となります。

更に言えば、必ずしも顔を知っている必要はなく、アカウント名で対外的に商売をしているような場合(顔出ししていないYouTuber、VTuber、インフルエンサー、Twitterで活動するイラストレーターなど)などは、アカウント名自体が芸能人の芸名や、ペンネームと同じような意味合いを持ちますので、アカウント名のみの認識で足りるという主張も可能であり、その場合には当然同定可能性は認められます。

ここはケースバイケースですが、いくらでも主張・立証のしようはあります。経験や適切な論証が必要な部分になるので、弁護士の力の見せ所でもあります。

源氏名と同定可能性

こちらもご相談の多いケースですが、源氏名を使用して夜のお仕事をされている方は、誹謗中傷被害に遭いやすいです。
ウェブサイト等への露出があり、また、サービスに対して、クレームをつけるお客さんや、同業の方が誹謗中傷をするというケースが散見されます。

そういった方についても、上記と同様に①「華」という源氏名が自分の使用している源氏名を意味すること、②自分が「華」であることの2点を主張立証することとなります。

夜職の方の誹謗中傷は、ホスラブという掲示板が非常に多いですが、だいたいスレッド名が、店舗名か、店舗名+源氏名の個スレとなっているので(だからこそ被害者自身が自分の誹謗中傷を発見できる)、①は容易に立証が可能です。
また、②については、お店から在籍証明書を出してもらうのが最も適切です。ただ、お店が協力してくれないこともあるので、本人の陳述書とお店のHPの写し等で主張・立証することが可能です。

ファンサイトや掲示板の同定可能性(一般閲覧者とは)

同定可能性の論点でよく問題となるのが、芸能人、アイドルグループ、バンド等のファンサイトやファン用の掲示板です。
バンドなどでいうと、100人くらいの箱でライブが行われ、コアなファンは20人から30人程度、ライブには全て足を運んでいる方が誹謗中傷をされるといった事案が多くあります。
この場合、本名ではなく、ニックネームのようなもので交流をしており、誰も本名を知らないといったケースがよく見られます。
この場合、一般の閲覧者において、同定可能とは言えないのではないかという問題が生じます。
しかし、一般の閲覧者というのは、全ての人を意味するものではありません。
その媒体を閲覧するに際して、前提知識を有している閲覧者という意味だと考えられています。
したがって、この事案でいうと、一般の閲覧者とは、「バンドのファンであって、ライブにも行ったことがある人たち」であると言えます。
そうなると、ニックネームだけでも、顔は思い浮かぶでしょうし、誰のことかこのコミュニティ内では明らかですので、その場合も同定可能性は認められるといえるでしょう。
こういったケースでは、他のファンの陳述書を取得するなどして、同定可能性に関する証拠を充実させることが有用です。

架空の名称と誹謗中傷

そもそも、架空の名称には誹謗中傷は成立しないという問題があります。
しかしながら、アカウント名を使用して、対外的に活動しているのであれば、その理論は当てはまりません。①自分の現実の写真をアイコンに使用している、②事業活動をしており、芸名やペンネームと同じである、③オフ会を開いてhanahana123として現実世界で交流をしているといった主張・立証をすることにより、この問題を回避できるため、架空の名称に誹謗中傷は成立しないという問題によって、依頼をお断りすることはほとんどありません。

最後に

相談にいらっしゃる方は、自分に対する投稿を自ら見つけて相談にいらっしゃいますので、当然、自分に対する投稿だと考えた「それなりの状況」が揃っています。
したがって、同定可能性が認められないので、対応ができないといった説明をして依頼をお断りすることは滅多にありません。
あの手この手で同定可能性を認めさせる算段をつけて、法的手続きを行うこととなり、その結果、裁判所に同定可能性が否定された事例も、私の記憶に有る限り存在しません。

インターネット上の誹謗中傷でお困りの方は、お気軽にご相談ください。

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