インターネット問題
2023.04.25
インターネット上の誹謗中傷被害に関する法的対応 〜発信者情報開示請求・削除請求・刑事告訴〜
CONTENTS
執筆者プロフィール
弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐
大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。
1 はじめに
現代では、誰しもが、ブログ、SNS、掲示板、その他第三者と交流できるインターネットサービスを利用しており、他者との交流が非常に容易な環境となっています。
便利な反面、見ず知らずの他者から誹謗中傷をされるといった可能性も高まっており、弊所でも毎月数百件を超えるご相談をいただいております。
第三者から誹謗中傷をされた場合に、どういった法的手続きが取れるのかについて、ご説明いたします。
結論から言うと、①投稿者の特定と、②投稿の削除を行なった上で、③民事上の損害賠償請求を行うことが可能です。
また、④誹謗中傷が犯罪行為に該当する場合は、刑事告訴を行うことも可能です。
対応の概要
①発信者情報開示請求(投稿者の特定)
②投稿の削除
②損害賠償請求
③刑事告訴(犯罪に該当する場合に限る)
2 法的手続きが可能な投稿
誹謗中傷をされた場合であっても、その投稿が、ご自身の権利を侵害するものでなければ、法的な手続きを取ることができません。
法的な権利侵害が認められる誹謗中傷としては、大きく、「侮辱」と「名誉毀損」に分けられます。
また、いわゆる晒し行為などは、「プライバシー権侵害」に該当します。
この他にも、「わいせつな書き込み(性的羞恥心の侵害)」、「脅迫的な書き込み(意思決定の自由や生活の平穏の侵害)」、
「業務妨害的な書き込み(営業権の侵害)」など、細かく分類すると様々な権利侵害が存在します。
どのような投稿が権利侵害にあたるのかについては、
こちらの記事で詳しく説明をしておりますので、こちらの記事をご確認いただけると幸いです。
3 投稿者の特定
(1)はじめに
まずは、違法な投稿を行なった投稿者を特定する必要があります。
法的手続きをとるためには、①投稿者の氏名、②投稿者の住所を知る必要があるため、
ここでいう特定というのは、氏名と住所を入手することです。
なお、投稿者が誰かわかっている事案については、その投稿者を対象にして、後述の損害賠償請求や、刑事告訴を行うこととなります。
(2)発信者情報開示請求とは
投稿者が誰かわかっていない事案については、
アクセスプロバイダ(通信会社)から発信者の情報を開示してもらう必要があります。
一般的には、コンテンツプロバイダと呼ばれる、投稿がされたウェブサイト等の管理者からIPアドレスやタイムスタンプ(投稿の日時+秒数のこと)の開示を受け、
このIPアドレスを管理するアクセスプロバイダと呼ばれる通信会社に対して、このIPアドレスを使用した契約者の氏名、住所、電話番号等を開示してもらう必要があります。
コンテンツプロバイダ→ウェブサイト等の管理者や管理会社
例:Twitter、Facebook、YouTube、Googleマップ、
Instagram、2ch、5ch、ホスラブ、爆サイ、abmebaブログ、FC2、ニコ生等の管理者
アクセスプロバイダ→投稿者が使用した通信会社
例:ドコモ、ソフトバンク、KDDI、ビッグローブ、ソニーネットワーク等
※IPアドレスというのは、ご自身が使用する通信に割り当てられた住所のようなものだとお考えください。
例えば、Twitterで誹謗中傷された場合、コンテンツプロバイダであるTwitterの運営会社(Twitter, Inc.という会社でしたが、イーロンマスクの買収により現在変わっています)に対して、IPアドレスとタイムスタンプ等の開示を求め、開示されたIPアドレスを管理するアクセスプロバイダに対して、当該IPアドレスを使用した契約者の情報を開示するよう求める形となります。
(3)任意開示請求と裁判手続き
発信者情報開示請求は、原則として裁判手続きを行う必要があります。
これは、プロバイダ側が「通信の秘密」を厳守しなければならない立場であり、一応訴訟で裁判所に命じられたから、発信者情報の開示を行なったという体裁を取る必要があるためです。
電気通信事業法やプロバイダ責任制限法といった法律・ガイドライン等にも、プロバイダが発信者情報開示請求をされた場合、きちんと争わなければならない旨明記されているため、プロバイダ側が任意で開示請求に応じることは極めて稀な状況です。
当事務所は、プロバイダ側の代理人に立つこともあるのですが、どうしても任意開示に応じることはできず、原則として、全件裁判手続きを要求しています。
したがって、任意での開示請求を行うことは時間の無駄となることが多く、後述の時間制限の問題もあるため、最初から弁護士へ依頼して、早期に裁判手続きをとることをお勧めしています。
※ただし、任意開示に応じるコンテンツプロバイダも存在します。
ここは、経験のある弁護士でないとわからないので、無駄な手続きをしないですむよう、経験豊富な弁護士へ依頼することが重要です。
また、弁護士によっては任意開示に応じてもらえるが、そうでないと応じてもらえないといったサイト存在するので、やはり、経験豊富な弁護士への依頼が重要です。
(4)手続きの内容
裁判手続きによる開示請求は、具体的に、①コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダに対して、発信者情報開示命令の申立てを行うか、②コンテンツプロバイダに対して発信者情報開示の仮処分命令の申立てを行なった上で、アクセスプロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟提起を行うこととなります。
ややこしい話で申し訳ありませんが、若干手続きの内容が異なり、①は新しくできた制度で、簡易迅速な審理を期待できるもの。
②は従来からある手続きで、仮処分の後に別途訴訟手続きが必要となり多少時間がかかるもの程度の認識があれば十分です。
したがって、①が早いし手続きも楽で好ましい方法ではあるのですが、どちらの手続きをとるべきかは、対象の掲示板やSNSの種類、依頼者の状況等によって変わってまいりますので、一概にこちらが良いということは言えず、このあたりは、発信者情報開示請求に詳しい専門家への相談が必要です。
例えば、海外送達が必要になる事案の場合、①の手続きはとれないとか、②の方が依頼者の情報の秘匿制度が充実しているとか、様々な考慮要素があります。
当事務所では、依頼者の事情を全て汲み取った上で、双方の手続きを説明し、最も依頼者の利益に適う手続きをとるようにしています。
なお、ご費用はいずれの手続きであっても大きく変わりません。
(5)期間
弊所の場合ですが、ご依頼から特定までに要する期間としては、
①発信者情報開示命令の申立ての場合:2〜4ヶ月程度
②発信者情報開示の仮処分命令の申立ての場合:4ヶ月〜6ヶ月程度
となります。
※あくまで目安となります。
(6)時間制限
発信者情報開示請求には時間制限あります。
これは、アクセスプロバイダ側が、問題となるIPアドレスを使用した契約者が誰かという情報(アクセスログといいます)を一定期間で消してしまうためです。
この期間は、大手3大キャリア(ドコモ、KDDI、ソフトバンク)で3ヶ月程度です。
中には、半年あるいは1年間保存している通信会社も存在するものの、多くは3ヶ月程度ですので、レアケースにかけて発信者情報開示請求を行うというのは、費用対効果が見合わないため、弊所では基本的にお断りしております。
(7)時間制限の例外
ただし、例外もあります。
たとえば、TwitterやInstagramなどの場合、登録する際に、電話番号が必要になる場合があり、コンテンツプロバイダ自身が、投稿者(違法な投稿を行ったアカウント管理者)の電話番号を保有しているケースが多いです。
この場合、3ヶ月という期間制限は関係ないため、極端な話1年前の投稿であっても、アカウントが存続している限りは、直接コンテンツプロバイダに対して、発信者の電話番号の開示を求めることが可能です。
電話番号がわかれば、弁護士会照会という制度を利用して、投稿者の氏名・住所を調べることができますので(かなり例外的なケースを除いて特定ができます)、そのような形で特定をはかることが可能です。
ただし、コンテンツプロバイダによっては、争ってくる場合があるため、見極めが必要となります。
こういった判断は、日頃からこの種の事案を扱っている事務所でないと難しいので、発信者情報開示請求を弁護士に依頼する際は、やはり慣れた弁護士に依頼をすることが非常に重要となります。
4 削除請求
投稿が違法である場合、削除請求が可能です。
削除請求は、コンテンツプロバイダに行うのが原則的な対応であり、通常は開示の手続きとあわせて、削除請求を仮処分手続きで行うことが一般的です。
ただし、著作権侵害や、営業権侵害の場合、仮処分手続きでは削除請求ができないと考えられているため、別の法的手続きが必要になる場合があります。
また、コンテンツプロバイダによっては、任意の開示請求に応じてくれるので、開示と異なり、裁判手続きが不要なケースもございます。
5 損害賠償請求
違法な投稿を行うことは、民法上、「不法行為」となりますので、加害者は被害者に対し、投稿によって被害者が被った損害を賠償する責任を負います(民法709条)。
具体的に、違法な投稿により被害を被った方は、精神的苦痛を感じますので、この精神的苦痛を慰謝するための「慰謝料」を損害として加害者に請求することができます。
また、名誉毀損や、営業権侵害などの場面において、これによって売上が減少したなどの事情がある場合は、営業損害の賠償を求めることが可能です。
さらに、発信者情報開示請求に要した弁護士費用も損害として認められます。
したがって、
① 慰謝料+弁護士費用
または
② 慰謝料+営業損害+弁護士費用
の賠償を求めることとなります。
6 刑事告訴
(1)犯罪に該当する投稿とは
投稿が犯罪に該当する場合、刑事告訴が可能です。
どういった投稿が犯罪に該当するかは、大まかに以下のような整理となります。
上記の他にも、事案によっては、著作権法違反や、迷惑防止条例違反、ストーカー規制法違反などが成立するケースもありますので、自分の被害が刑事事件にできるかは、弁護士へご相談ください。
(2)警察が動いてくれるのか
犯罪が成立した場合であっても、警察が動いてくれるとは限りません。
むしろ、弊所の経験上、警察は、インターネットの誹謗中傷事案について、腰が重く、被害者が自分で相談に行っても、基本的には突き返されてしまうことがほとんどです。
これは、警察側でも、加害者の特定は難しく、特定の方法がそもそも分からなかったり、分かったとしても手間がかかることや、誹謗中傷事件が他の重大犯罪よりも法定刑が軽いため、すべての相談に対応していたら警察も業務が回らなくなってしまうことによります。
(3)警察を動かすためには
警察は、犯罪が成立しており、告訴状が提出された場合、原則これを受理し捜査を開始する必要があります。
被害者が本人で警察にいくと、「被害届」を出す出さないの問題となりますが、弁護士が動く場合は、「告訴状」を提出することになるため、ここで弁護士が作成した「告訴状」を弁護士が警察に持参し、受理を促すというフローが重要となります。
また、弁護士が特定まで完了させていれば、警察側も楽になりますし、「特定が難しい」といった断る理由がなくなるため、受理せざるを得なくなります。
そのため、弁護士が投稿者を特定させた上で、法的な理論を記載した告訴状を作成し、これを持参する形を取れば、基本的には警察は告訴を受理し、捜査を開始することとなります。
ただし、民事上違法な投稿であっても、刑事事件化できるまでの強度がない投稿などの場合は、受理してもらえません。そうなると、無駄な弁護士費用を払うこととなるため、このあたりも、経験のある弁護士の判断が重要となります。
(4)損害賠償請求と刑事告訴が両方できるのか?
案件を担当していると、依頼者の方から、損害賠償請求と刑事告訴を両方やって良いのかという質問が多く寄せられます。
結論としては、「もちろん両方できる」となります。
民事と刑事は全く別の制度であり、民事は被害を回復するためのお金の話であり、刑事は社会的な制裁を加えるための手続きであるため、当然両立します。
ただ、加害者側は、刑事告訴されたくないため、示談で解決をしようと考えることが多いため、弊所で案件を扱う際は、民事での示談交渉を先行させ、それで相手が全く誠意がない場合に刑事告訴をするといった形で案件を進めることが多いです。
無理やり刑事告訴をするよりも、被害者が納得できる金額で示談をした方が、加害者側にも前科がつきませんし、被害者側も被害を回復できるため、両者納得して案件を終了させられることが多いです。
ただし、極めて悪質なケース(リベンジポルノ事案や、粘着質かつ執拗な誹謗中傷、ストーカー事案など)では、刑事事件を先行させることもあります。
これは、相手の方と民事の交渉をすること自体が、さらなる誹謗中傷を誘発するなど、危険な場合があり、その場合は、警察をまず介入させることが重要になるためです。
7 まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、誹謗中傷被害に関する法的手続きについて説明をいたしました。
誹謗中傷被害に遭われた方は、期間制限の問題もあるため、なるべく早く弁護士に相談することが重要です。
弊所では、初回相談は無料となっておりますので、お気軽にお問い合わせください。