インターネット問題
2023.06.13
通信会社から「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いた場合の対応〜インターネット上で誹謗中傷や著作権侵害をしてしまった場合〜
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執筆者プロフィール
弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐
大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。
1 はじめに
インターネット上で誹謗中傷をしてしまった場合や、違法ダウンロード、著作物の無断転載などの著作権侵害をしてしまった場合、被害者が投稿者の法的責任を追及するために、発信者情報開示請求をすると、通信会社(NTTドコモやソフトバンク等)から意見照会書が届くこととなります。
今回の記事では、そもそも意見照会書とは何か、また、実際に届いてしまった場合、どのように対応するべきかについて解説いたします。
2 意見照会書とは?
意見照会書とは、発信者情報開示請求を受けた通信会社が、対象となる通信を使用した契約者に対して、開示請求に同意するか否かと、投稿をした理由等の意見を求めるために送付する書面です。
被害者が発信者情報開示請求をする場合、①コンテンツプロバイダ(掲示板運営者や、SNSを運営する企業のこと)に対して発信者情報開示請求を行い、コンテンツプロバイダから入手したIPアドレス等の情報を元に、②通信会社に対して発信者情報開示請求をするという流れが通常の流れです。
詳細はこちらの記事をご覧ください。
https://legal-leon.jp/column/558/
この②の手続きに移行した際に、通信会社から契約者に対して意見照会書が送付されます。
通信会社は、通信の秘密を守る立場にあり、開示請求に対しては、原則として争う必要があるという建前になっています。
また、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)という法律の6条において、通信会社は、開示請求を受けた場合は、「発信者の意見を聴かなければならない」と義務付けられているため、これに対応する形で通信会社(プロバイダ)は、意見照会書を送付しています。
3 意見照会書の回答について
意見照会書には、回答書という書面が添付されています。
この回答書を利用して、通信会社に対して、意見を回答することとなります。
多くの場合書式①と、書式②があります。
契約者=投稿者である場合は①を、契約者と投稿者が異なる場合は②の書式を使用することとなります。
主な内容としては、以下を回答することとなります。
(1)情報の開示に同意するか否か
(2)開示請求に対する意見
また、通信の契約者は投稿者ではなく、投稿者の家族であるというケースも多く見られます。
例えば、未成年の子の父親が子供携帯電話や、自宅のwifiの契約をしており、未成年の子が投稿を行った場合や、配偶者が投稿を行った場合などです。
その場合、書式②を使用して、自分ではなく、家族が投稿者であることを明記した上で、上記と同様の回答を行う必要があります。
4 意見照会書を無視した場合や、回答期限を過ぎてしまった場合
意見照会書は2週間程度の回答期限を設けているものが多いです。
では、回答期限までに回答が間に合わない場合や、回答をしなかった場合はどうなるのでしょうか。
この場合、通信会社側は、権利侵害が誰の目に見ても明らかであるような場合を除いて、発信者情報を開示することはありません。
その場合、被害者側は発信者情報開示請求訴訟や、開示命令申立という手続きを行い、結果として、裁判所から通信会社に発信者情報を開示しろという判決や命令が出た場合に限り、発信者の情報が開示されることとなります。
これは、前述の通り、通信会社は通信の秘密を遵守する立場にあるため、「きちんと争いましたが、裁判所に命じられたので仕方なく情報を開示しました」という建前を維持する必要があるためです。
したがって、回答期限がすぎたからといって慌てる必要はありません。
5 どのように対応すれば良いか〜権利侵害が確実な場合〜
まず、投稿の内容が、裁判所において「権利侵害と認定されるか否か」を見極める必要があります。
これは経験の豊富な専門家でないとなかなか判断が難しいため、インターネット問題に詳しい弁護士への相談が必要であると思われます。
投稿の内容が権利侵害に当たる場合は、どのような意見を述べたところで、結局開示されてしまいますので、意味がありません。
そればかりか、感情的な意見を記載した場合、被害者がさらに怒ってしまい、刑事事件化されてしまうといったリスクも否定できません。
この場合は、開示に同意をして、被害者と示談交渉を開始してしまうというのがお勧めの方法となります。
理由としては、以下の2点が挙げられます。
(1)後々、確実に情報が開示されてしまう
意見照会書が届いている以上は、裁判所が発信者情報開示請求を認める判決や命令を出した場合、確実に特定されてしまう状況にあります。
それであれば、早めに示談交渉に入ってしまった方が、被害者の感情を緩和できる可能性が高く、また、不意打ち的な刑事告訴等も防げる可能性が高いです。
訴訟等を経て情報開示を受けた場合、被害者が直ちに刑事告訴をしてくるケースがありますが、こちらから謝罪をしつつ、示談交渉を始めてしまえばそのリスクを回避できることとなります。
また、訴訟の結果が出るまで、事案によっては半年程度かかりますので、それまでの間不安な気持ちで待っているというのも精神衛生上好ましくないでしょう。
(2)損害賠償金を抑えられる可能性がある
被害者は、投稿者に対して損害賠償請求を行うことが可能です。
具体的には、慰謝料+発信者情報開示請求にかかった弁護士費用の合計額を請求してくることとなります。
意見照会書が送られてくるタイミングは、訴訟等に限らず、任意の開示請求の場合もあり得るため、意見照会書の時点で同意して発信者情報を開示した場合、弁護士費用を抑えることが可能となるためです。
つまり、先述の通り、発信者情報開示請求は、コンテンツプロバイダ(掲示板等の運営者)に対する開示請求と、通信会社に対する開示請求を行う必要があり、多くの法律事務所で、それぞれのフェーズで弁護士費用が発生します。
原則は訴訟等の法的手続きが必要となるため、任意開示請求の段階で開示に同意すると、訴訟の弁護士費用が浮き、結果として請求額が抑えられる可能性が存在するためです。
弊所でも、意見照会書を送付して、そこで一定数開示に同意をする投稿者も存在するため、依頼者の費用負担を下げるために、まずは任意の開示請求を送付するという対応をとることが多いです。
上記のような観点から、弊所では、明らかに開示されてしまうであろうという場合には、開示に同意をしてしまい、示談交渉を行うという対応をお勧めしております。
6 どのように対応すれば良いか〜権利侵害を争える場合〜
他方で、権利侵害が認められるか微妙である事案や、投稿に相当の理由があり、権利侵害の違法性を否定できそうな事案については、発信者情報の開示は不同意とした上で、しっかりとした意見を提出する必要があります。
この種の事案においては、弁護士に意見照会書の依頼をお願いするというのも非常に効果的です。
先述の通り、通信会社は、発信者情報開示請求に対して、一応は争う姿勢を示さなければなりません。
なので、きちんと弁護士を雇って、訴訟等の対応をしてくれる会社がほとんどです。
(少なくとも、大手の通信会社は必ずこのような対応をしてくれます。)
ただし、通信会社の弁護士は、発信者がどういう人で、どういった理由で投稿を行ったかがわからないため、具体的な反論をし辛い状況にあります。
そのため、発信者の意見をよく聞き、それを踏まえて法的観点から、権利侵害が認められないという意見を提示する、発信者側の弁護士の役割が重要となります。
具体的にどのような意見を述べるかはケースバイケースなのですが、例えば以下のような類型があります。
①同定可能性が認められない。
誰に対する投稿であるか、第三者から見て不明であるという主張です。
これは、掲示板全体を確認し、根拠となる投稿をさがして、「この投稿は必ずしも被害者に対してなされたものであると判断できない」、
「別の人に対して向けられた投稿である可能性がある」といった主張をする場合があります。
以前、弊所で対応した案件でも、この主張が認められて、開示請求が認められなかった例があります。
②違法性が認められない。
侮辱などの事例では、際どい投稿が多いです。
侮辱は、社会通念上の受忍限度を超えた場合に違法となるため、単に「こいつばかだな笑」程度の投稿であれば、違法性が否定される可能性が高いです。
ここの線引きは難しく、弊所で侮辱を争う場合は、類似の裁判例をいくつも出して、この投稿は「社会通念上の受忍限度を超えているとはいえない」といった主張をしていくこととなります。
③違法性が阻却される
名誉毀損の場合、投稿が真実であって、投稿をすることが、公共の利益に合致するような場合、違法性が阻却されます。
わかりやすい例でいうと、「Aさんは人を殺したことがあるから気をつけた方が良い」という投稿について、これが真実であれば、これを社会に知らせる必要性も当然認められるため、違法性は認められないと判断される可能性が高いです。犯罪報道などと同じだという整理をするわけです。
したがって、たしかにAさんのことを悪く書いたが、内容が真実であり、注意喚起のために投稿をしたのであって、投稿は違法ではないといった意見を述べることが効果的です。
7 弊所の対応
意見照会書を作成するには当然弁護士費用が発生します。
また、示談交渉をする場合も同様です。
ただ、意見を述べたところでどうせ開示されてしまうであろう投稿について、意見照会書を提出する経済的な合理性はありません。
弁護士費用が二重にかかってしまい、依頼者のメリットが皆無です。
稀に、どんな案件でも意見照会書の作成を勧める法律事務所があるようですが、そういった法律事務所の利用は避けた方が無難でしょう。
弊所では、毎月300件以上のインターネットトラブルに関する問い合わせを受けておりますので、そういった経験を踏まえて、開示請求が認められてしまう投稿であるか否かを吟味し、できるだけ依頼者の方の負担が少ない形で、対応方針を提案させていただいております。
意見照会書が届くと、非常に不安な気持ちになると思いますが、まずはお気軽にご相談ください。