インターネット問題
2023.08.14
リベンジポルノ被害とその対応
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執筆者プロフィール
弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐
大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。
1 はじめに
リベンジポルノとは、元交際相手や元配偶者等の性的な画像や動画を、本人の同意なく、インターネット上に掲載する行為のことをいいます。
その他にも、出会い系サイトやマッチングアプリで出会った人、援助交際やパパ活の相手、友人などに、「私的に利用するだけで公開しない」との約束で撮影された画像や動画、又は無断で隠し撮りされた画像や動画を、インターネット上に掲載される場合もあります。
最近では男性の被害者も見受けられ、LGBTの方のトラブルも見かけるようになりました。
2 リベンジポルノ被害の深刻さ
リベンジポルノ被害は、他のインターネット上の誹謗中傷被害よりも、より深刻な被害をもたらします。
被害者の方からすれば、自分の裸の写真や、性的な行為を行っている写真を、不本意に不特定多数の者に見られるというのは、これ以上ないほどの精神的苦痛を感じることでしょう。
リベンジポルノは拡散されてしまうケースも多く、特にアイドル、インフルエンサー、芸能関係者が被害者となった場合、その拡散の速度や範囲はより広範になります。
また、動画の内容や掲載の媒体によっては、あたかも被害者の方がアダルトビデオに出演しているかのような誤解を生じさせるものもあり、名誉棄損的な意味での被害が同時に発生する場合もあります。
3 犯罪行為に該当すること
リベンジポルノは、「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」という法律で禁止されています。
いわゆる「リベンジポルノ防止法」といわれる法律です。
詳細に説明すると難しい表現ばかりになるので、端的に説明すると、第三者に公開する事を承諾していない、性的な画像や動画をインターネット上に掲載したり、本やDVDにして、第三者に提供したりすることをいいます。
該当条文は以下の通りです。
法定刑は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。
同じインターネット上で成立する典型的な犯罪として名誉棄損罪がありますが、名誉棄損罪は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処するとされています。
禁錮と懲役の違いは、平たく言えば、強制的な作業の実施(労働)があるかないかの違いです。
懲役の場合は、刑務所に入ったうえで、特定の作業を行わなければなりません。
他方で、禁錮の場合は、特定の作業を行う必要がありません。
名誉毀損罪では「禁錮刑」がありますが、リベンジポルノにおいては「禁錮刑」がありません。
したがって、リベンジポルノの方が、名誉棄損罪よりも重い犯罪であるといえます。
4 損害賠償請求の対象となること
リベンジポルノは、当然、刑事事件だけではなく、民事上も違法な行為です。
具体的には、肖像権や、プライバシー権、性的羞恥心、事案によっては名誉権、といった各種の人格権を侵害する違法な行為ですので、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求が可能です。
5 リベンジポルノ被害の対応
(1)削除請求
まずは、投稿を削除することが必須の対応となります。
被害者からすれば、1日でも早く削除したいと考えるのが当然です。
リベンジポルノ被害は、5ch、2ch、爆サイといった掲示板、Twitter、Facebook等のSNSの他、FC2などの動画サイトや、ポルノハブ(pornhub)といった海外のアダルトサイトに掲載されることもあります。
リベンジポルノの場合は、被害が深刻であることや、権利侵害が明白であることから、どのサイトも基本的には任意の削除請求に応じてくれることがほとんどです。
速やかに削除申請をすることが重要ですが、必ず証拠保全をする必要があります。
証拠を保全していない段階で削除申請をしてしまうと、投稿が削除された後、刑事告訴や損害賠償請求ができなくなってしまう可能性があります。
証拠の保全方法ですが、スマートフォンのスクリーンショットだけでは足りません。
どのURLに問題の投稿がされていたのか、また、その内容はどういったものであったのかを確認できる必要があります。
そのため、必ずURLが表示された状態で証拠を保全しましょう。
また、動画であれば、動画の録画等が必要となります。
(2)海外サイトの削除請求
海外サイトの削除請求に関してはやや特殊な問題があります。
まず、英語での連絡が必須となるサイトが多いです。
その上で、日本のサイトのような、肖像権やプライバシー権での削除申請フォームが存在しないことがあります。
この場合は、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)という法律に基づく削除請求を行うこととなります。
著作権侵害になるのかという点ですが、実演家の権利、共同著作物であることの主張など、事案によって検討を加えて、一応の法的理論を構成すれば、対応してもらえます。
このあたりは、英語も使えて、この種の事案の対応経験がある弁護士に依頼をするのが無難でしょう。
弁護士法人LEONでも、かなりの件数を対応しており、基本的に、こちらの請求が認められております。
(3)刑事告訴
先述の通り、リベンジポルノは犯罪行為ですので、リベンジポルノ防止法違反を被疑事実として、警察に被害届や告訴状を提出することが可能です。
一般的な誹謗中傷事件の場合、警察は投稿者の特定を含めた対応をしてくれないことが多く、その場合、弁護士にて投稿者の特定を完了させた上で、告訴状を提出するという形を取る必要があります。
他方で、リベンジポルノとなると、警察が迅速に動いてくれるケースも多いです。
特にリベンジポルノは、投稿者が誰かわかりやすいという特徴があるため、事案によっては、すぐに逮捕をしてくれることもあります。
(4)投稿者の特定
リベンジポルノは、被疑者がわかりやすい一方で、元彼氏や元夫が、「自分はやっていない」としらを切る場合があります。
この場合は、発信者情報開示請求をして、被疑者を特定する必要があります。
また、出会い系サイトやマッチングアプリなどで出会った一夜限りの相手や、風俗店のお客さんといった人物が犯人の場合、やはり犯人の特定が必要になります。
犯人の特定方法ですが、投稿者が誰かを調べるために発信者情報開示請求を行うこともあれば、投稿者のアカウントから調査した情報を元に、弁護士会照会手続を利用して特定を試みる場合もあります。
弁護士法人LEONでは、できるだけ依頼者の負担が少ない方法で特定ができるよう様々な方法を検討しております。
他方で時間制限がある中で、確実に特定することも重要ですので、案件やサイトによって柔軟に依頼者に最善の方法を検討・提案し、実行することが重要です。
(5)損害賠償請求
リベンジポルノは前述の通り、不法行為となり、被害者は加害者に対して、損害賠償請求が可能です。
損害の額については、動画であるのか画像であるのか、どれほど拡散されているのか、どういった内容であるのかによって変わってきますが、一般的な誹謗中傷事件に比べて慰謝料は高額になります。
事案によっては、数百万円での示談となるケースも存在しますし、基本的には、100万円以上の示談金を獲得するケースが多いです。
日本の裁判所は、残念ながら、慰謝料を高額に認める傾向になく、訴訟となった場合の慰謝料はそれほど高額にならないケースが多いです。
しかしながら、リベンジポルノに関しては、その被害・精神的苦痛が甚大であり、裁判所も100万円を超える高額な慰謝料を認める場合があります。
(6)再発の防止
さらに、投稿者が被害者の方の動画や画像を保存していること自体が問題であり、それでは被害者の方も安心が出来ませんので、必ず、投稿者に、問題となった動画や画像を全て削除させることが必須となります。
具体的には、警察が自宅を訪れて現認しながら削除させることもありますし、刑事事件化していない場合は、削除したことを証する書面を提出させた上で、万一削除が完全に完了していない場合は、違約金として数百万円を支払うことを約束させるなどの対応を取ることもあります。
そのほかには、接触禁止や類似行為の禁止などを約束させ、違約金を設定し、示談書を締結することで、ようやく案件が解決したと言えるでしょう。
6 おわりに
弁護士法人LEONでは、1ヶ月に300件以上のインターネット問題のご相談を受けております。
また、リベンジポルノ事案についても非常に多数のご依頼をいただいており、状況に応じて、被害の回復と、依頼者の利益を最大化できるよう対応をしております。
発信者情報開示請求をする必要がある場合、時間制限もございますので、リベンジポルノ被害は初動が非常に重要となります。
被害に遭われた方は、なるべくお早めにご相談いただけますと幸いです。