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エンタメ・知財法務

2024.06.15

アプリ・ゲームのガチャと景品表示法②〜表示規制の問題〜

現代のアプリ・ゲームには、「ガチャ」の存在が必要不可欠です。

ユーザーは、より強いキャラクター、武器、アイテムを手に入れるためには、ガチャを回す必要があり、これがゲーム会社の売り上げとなります。

今回は、アプリ・ゲームの売上を支える「ガチャ」を実装する上で注意すべき、景品表示法上の表示規制についてポイントを解説いたします。

また、関連する問題として、所謂ナーフに関する法的な問題についても解説します。

なお、ガチャの実装については、コンプガチャと景品規制の問題にも注意をする必要があります。

そちらについて、こちらの記事で解説しています(アプリ・ゲームのガチャと景品表示法①~景品規制の問題~)。

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執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐

大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。

景品表示法の表示規制とは

景品表示法の規制概要

景品表示法とは、「不当景品類及び不当表示防止法」のことで、簡単にいうと、消費者に不利益が生じないように、「景品」に上限を設けたり(景品規制)、消費者を誤認させるような表示を禁止する(表示規制ための法律です。

今回は、「表示規制」について解説をします。

表示規制の適用を受ける「表示」とは

(1)表示とは

景品表示法は、第5条において、事業者がその供給する商品や役務の取引について、一般消費者に対して、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する恐れがあると認められる表示(不当表示)を禁止しています。

表示とは、「顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であって、内閣総理大臣が指定するものをいう。」と定義されます(景表法第2条第4項)。

そして、定義告示第2項では、広告その他の表示とは、かなり広範な内容となっており、インターネット上の表示を含む、およそ一切の表示が含まれると考えて問題ないでしょう。

(2)顧客を誘引するための手段

「顧客を誘引する」とは、新たに顧客を誘引する場合や、既存顧客に対して取引の増大・継続や再取引を誘引することを含みます。

したがって、ゲームのユーザーに対して、アプリ上やWebサイト上で、ユーザーがガチャやアイテムを購入する上で考慮要素となり得る表示をすれば、景品表示法上の表示規制を受けるという整理になります。

禁止される表示

表示規制は、主に、優良誤認表示と呼ばれるものと(景表法5条1号)、有利誤認表示と呼ばれるもの(同条2号)に分類されます。

なお、同条3号は、1号と2号でカバーできないものを個別具体的に規制するものなので、ガチャとの関係ではあまり気にしなくて問題ありません。

簡単に言えば、優良誤認表示は、「実際よりも商品が優良であると誤認させる表示」のことで、有利誤認表示は、「実際よりも商品が消費者に有利であると誤認させる表示」のことです。

典型例で言えば、以下のようなものが挙げられます。

優良誤認

実際はカシミヤ50%なのに、カシミヤ100%と表示する

実際は様々な企業が製造しているのに、日本で当社しか製造できないと表示する

有利誤認

値引きの実態がないのに、半額セールなどと表示する。

実際はずっと同じ金額で商品を販売しているのに、1週間限定の価格であるなどと表示する。

ガチャと表示規制の問題

ガチャにおける確率の表示と景品表示法の問題

ガチャにおける確率の表示には注意が必要です。

ガチャから排出されるキャラクター等の数が少なければ、すぐに全キャラクターを集められてしまい、ゲーム会社側の売上げが伸びませんし、ユーザーも飽きてしまうため、オンラインゲームにおいては、定期的にアップデートを行い、新キャラクターを追加し続ける必要があります。

そのため、人気のあるアプリゲームは、キャラクターや武器その他アイテムが、膨大な数存在し、コンテンツが充実している傾向にあります。

したがって、1種類のキャラクターが欲しい場合、イベント等を考慮しなければ、その排出確率は0.1%以下となり、場合によっては、0.01%を下回る場合もあります。

そのため、ガチャから簡単にお目当てのキャラクターが出るような表示は、有利誤認に該当する可能性があるため、NGとなります。

実際に消費者庁が命令を出した事例としては、以下のようなものがあります。

「THE KING OF FIGHTERS‘98 ULTIMET MATCH Online」の事例

上記はわかりやすい事例ですが、バナー広告等で、あたかも一番レアリティの高いキャラクターが高確率で出るような表示をするなどして、消費者に対して、実際よりも高確率で排出されるだろうと誤認を与える場合も有利誤認となるので、注意が必要です。

例えば、ガチャの中に10個のくじが入っており、「確率アップ」と表示した上で、その中の5個について、一番レアリティの高いキャラクターのイラストを使用するなどすれば、50%近い確率であると消費者が誤認する可能性があるので、リスクが高いといえます。

また、当然ですが、排出されないキャラクターを排出されるかのように記載する行為も有利誤認となります。

ゲーム会社側からすれば、意図的に上記のような行為を行うことはないでしょうけれど、うっかりイラストを間違えてしまったような場合も景品表示法違反とされてしまうため、ガチャ周りの表示については、特に注意が必要です。

ガチャから排出されるキャラクター・アイテム等の品質

お目当てのキャラクターが実際のステータスよりも強いような表示をした場合、それは優良誤認となります。

したがって、ゲーム会社側は、キャラクターのステータスや、技、特技といった能力について、事実と異なる表示をすることはできません。

実際に消費者庁が命令を出した事例としては、以下のようなものがあります。

ナーフと景品表示法の問題

ナーフとは、キャラクターやアイテムが強すぎて、ゲームのバランスが崩れた場合に、ゲーム会社側が、キャラクターやアイテムの能力値を下方修正することをいいます(運営が想定していた仕様となっておらず、実装段階でミスがあり、下方修正する場合もあります)。

オンラインゲームは、定期的にアップデートを繰り返すため、運営者が想定してよりも強力すぎる場合、止むを得ず、下方修正を強いられることがあります。

カードゲーム等では特にこの問題が多く発生し、「使用枚数の制限」「使用禁止」などがされる場合もあります。

 

ナーフについては、ナーフについては、実際にキャラクター等が販売された時点では表示と実態は合致しているのですが、事後的にキャラクター等が弱体化することになるため、景品表示法上の問題が生じ得ます。

私が知る限り、ナーフ等について、消費者庁が動いた事例というのは見当たりません。

販売時点での表示と実態が合致しているという点が、消費者庁が動く上で、若干やりづらい側面があるのだと考えます。

もっとも、例えば、新キャラクターを導入して、ガチャイベントを開催し、ガチャイベント終了直後にナーフをするような場合は、あまりにも悪質かつ消費者に対して被害を生じさせますので、リスクはかなり高いと考えられます。

また、ナーフは、法的な側面だけではなく、ユーザーの信頼を損ないかねませんので、「炎上」のリスクや、ユーザー離れのリスクがつきまといます。

そのため、止むを得ずナーフを実施する場合は、事前に告知をした上で、相当期間経過後にナーフを実施するなどの対応が無難です。

 

また、ナーフに伴い、対象キャラクターのガチャを回した分のガチャチケットを配布した上で、「詫び石」と呼ばれるお詫びのゲーム内通貨を配布するといった対応をしている事例が複数存在します。

このような対応をする場合、ユーザーごとに個別の対応が必要となるため、ゲーム会社側の労力は計り知れませんので、ゲーム会社側として、デバッグ作業や検証作業を十分に実施するなど、できる限りナーフを避けるような体制を構築す必要があります。

 

なお、昨今NFTを利用したゲームが台頭してきています。

NFTを利用したゲームについては、ガチャから排出されるNFTアイテム等が、通常の「データ」に比べてより「経済的価値」を認定しやすいため、ナーフについてはより慎重な対応が必要となります。

NFTのアイテム等をナーフしたことによってユーザーに損害が生じた場合、損害賠償請求等で敗訴する可能性が十分存すると考えられます。

罰則等

罰則の概要

景品表示法違反の事実が認定された場合、内閣総理大臣は、事業者に対して、措置命令や課徴金納付命令を出すことができます。

措置命令に違反した場合は、刑罰の対象となります。

具体的には、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます。

また、法人の場合、法人と代表者は、3億円以下の罰金に処せられます。

通常であれば、措置命令に従う事業者がほとんどでしょうから、景品表示法違反した場合、措置命令と課徴金納付命令が出され、それが公表されると覚えておけば問題ないでしょう。

課徴金の金額

(1)原則

課徴金については、「課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額」と定められています。

したがって、原則として、違反行為をした期間における、違反行為のあった対象の商品の売上の3%となります。

例えば、2週間ガチャイベントを開催し、その際、確率の表示について有利誤認をした場合、2週間の間のガチャイベントで生じた売上の3%が課徴金の金額となります。売上が1億円であれば、300万円となります。

 

(2)対象期間の加算

ただし、①課徴対象行為をやめた日から6ヶ月を経過する日、または②一般消費者の合理的な選択を阻害するおそれを解消するための措置をとった日のいずれか早い日までの間に、課徴金対象行為にかかる商品の取引をした場合は、当該取引をした日までの期間が、課徴金を算定するための期間に加算されます。

少し複雑ですが、違反行為をやめただけでは、消費者の合理的な選択が阻害されている状況が完全に解消されるわけではありません。

例えば、違法な広告を取り下げたとしても、以前それを見た消費者が、違法であったことを知らずに、広告の記憶をもとに商品を買ってしまうかもしれません。

その間に問題の商品が販売されれば、消費者被害が継続する可能性があります。

そこで、①違反行為が終了してから6ヶ月を経過するか(これくらい経過すれば誤解は解消されるだろうという考え)、②お知らせを出すなどして、消費者の誤解を解消する行為を行うか、いずれか早い日までの間に対象の商品が販売されてしまった場合、最後に対象の商品が販売された日までの期間を加算するという制度になっています。

 

(3)必要な対応

上記の通り、算定期間が伸びてしまうと、課徴金の額が増えてしまうため、景品表示法に違反した場合、直ちに違反の表示を止めるとともに、ゲーム上と公式ウェブサイト上のわかりやすい箇所に、景表法違反の疑いがあった事実を記載し、消費者の誤解を解消するための適切な措置を実施する必要があります。

また、課徴金については最大で50%減額をしてもらえる可能性があります。

前掲のガンホーの事案でも、ガンホーが事前に適切な報告を行ったため、課徴金の額が半額となっています。

この減額は、消費者庁の調査が入る前に実施しなければ適用されないため、会社としては、景品表示法違反行為が発覚し、炎上のような状態が発生したら、速やかにユーザに対する対応と、消費者庁に対する報告を行う等の対応をするのが適切です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は、ゲーム制作に欠かせないガチャと景品表示法上の表示規制との関係について解説をいたしました。

もっとも、あくまで、一般論となりますので、個別具体的な対応や検討が必要となる場合があります。

ゲームの仕様に関し、疑問が生じた場合は、弁護士等の専門家への相談を強くお勧めいたします。

 

弊所では、数多くのゲーム会社、ウェブサービス運営会社様からご依頼をいただいており、様々なゲームやサービスの仕様に関する法令調査や助言等を行ってまいりました。

問題の仕様について、「これは違法となります」といった回答だけではなく、「こういう仕様にすれば実現できそうだ」、「こちらの方が売上にも貢献できるのではないか」など、これまでの経験を踏まえ、個別の案件に応じた、対案の提示や具体的なアドバイスを提供できるよう心がけております。

お気軽にご相談いただけますと幸いです。

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