エンタメ・知財法務
2024.06.21
ギャンブル風ゲーム〜NFTも含めて、賭博罪その他の注意すべき法的項目を解説します〜
お金を賭けて競技やゲームを楽しむことは、日本においては原則として全て賭博として禁止されています。
いやいや、競馬やパチンコは普通にお金を賭ける形で運営されているし、CMもやっているじゃないかというツッコミも当然のことですが、これらは競馬法や風営法といった法律の規制のもとに適法に運営されています。
昨今は、オンラインカジノについて耳にする機会も増え、もしかしてオンラインなら合法なのかと思われがちですが、これも基本的には違法です。
それでも、麻雀やポーカーその他のカジノゲーム(本記事では、麻雀も含めて、カジノゲームと呼びます)は、ゲーム性が高く、手軽に始めやすいので、金銭を賭けない形で楽しんでいる方はたくさんいます。
オンラインゲームでも、カジノゲームはありますが、一歩間違うと賭博に該当するおそれがある一方、オンラインゲームの仕様が複雑化しているため、マネタイズに苦心している事業者様の方々は非常に多いです。
近時は、NFTを導入するゲームも増えていますが、NFTは、従前のゲーム専用通貨やアイテムに比べると、現金への換金性があるため、賭博に該当しないようにより注意が必要になります。
そこで、本記事では、カジノゲームを適法に制作する際に、法的に注意しなければいけない点をなるべくわかりやすくお伝えし、NFTにも触れ、読者の方の視界を少しでも晴らしていきたいと思います!
CONTENTS
執筆者プロフィール
弁護士法人LEON
カウンセル弁護士 佐藤 匠
大手のゲーム開発会社や外資系の動画配信事業会社に社内弁護士として勤務し、
各種契約や知的財産などの法務を担ってきました。
現在はエンタメ業界を中心に、広く企業法務全般に力を入れています。
この記事を3行でまとめると・・・
間接的に現金を賭けている設計になっていても賭博罪が成立する可能性あり。
カジノゲームを開発・製作する場合は、賭博罪の他にも、景品等表示法や資金決済法等に注意。
NFTを仕様に含める場合は、ユーザーが損失を被る可能性に細心の注意が必要。
賭博罪(刑法第185条)
そもそも賭博罪って?
賭博罪は、刑法において以下のように定められています。
この要素を分解すると、
①偶然の勝敗により、②財物や財産上の利益の、③得喪を争う行為
という要素になります。
これらが全て揃った行為について、賭博罪が成立します。
偶然の勝敗
「偶然の勝敗」とは、当事者において結果が確実に予見できないこと、または、勝敗が主観的に不確実な事実によることをいいます。
当事者の能力によって勝敗が決まる場合でも、多少でも偶然性があれば該当します。
当たりはずれのあるクジだけでなく、ジャンケン、花札、ビリヤードなどもこれに該当します。
従来のオンラインゲームにおいて、対価を支払って利用する、いわゆる「ガチャ」や、くじの結果によりもらえる商品が変わるくじ引きサービスもこの要素を持っているといえます。
財物や財産上の利益
「財物」は、財産的な価値のある有体物をいいます。フィギュア、タオル、キーホルダー、シールなど、実在するものが対象です。
ゲーム内のデータは、実際に触れられるようなものではなく、実在しているとは言えないので、「財物」ではありません。
次に触れる「財産上の利益」に区分されます。
「財産上の利益」は、債権、サービスの提供、データなどが該当します。
ゲーム内のデータは、実在していないことに加え、(一般的な利用規約によれば)その権利は運営会社が保持しているものであるため、ユーザーはあくまでそのデータを使用する権利を会社から許諾されているという形になります。
つまり、対価を払ってガチャを回してアイテムを獲得した場合、厳密にはそのアイテムを保有しているわけではなく、アイテムのデータを利用する債権を獲得したということになります。
得喪を争う行為
「得喪を争う行為」とは、勝者が財物または財産上の利益を得て、敗者がこれらを失う行為をいいます。
先ほど挙げた有料の「ガチャ」やくじ引きサービスは、支払った対価に見合うものが最低でも獲得できるということで、「失う」という要素がないため、賭博罪には該当しません。
ゲーム運営において、ユーザーから対価を得て売り上げを上げる場合に「偶然の勝敗」や「財産上の利益」を無視することは難しいため、賭博罪の成立を回避するためには、この敗者における損失が生じないようにする設計が非常に重要となります。
「一時の娯楽に供する物」
上記条文で、「ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」は、賭博罪は成立しないと書かれています。
これはどういう物かというと、価格、費消の「即時性」による総合判断によって決定されるといわれています。
要するに、安くて、獲得後すぐに消費されるようなものです。
例えば、お菓子などの食べ物、タバコなどです。使用期限が極端に短いゲーム内アイテムもこれに該当すると言えるでしょう。
逆に言えば、金銭や、ゲーム専用通貨、フィギュア、使用期限のないゲーム内アイテムなどはこれに該当しません。
少なくともオンラインゲームにおいて、この但し書きを利用して賭博罪の成立を回避するような設計は現実的ではないと思います。
使用期限が極端に短くても、たくさんの人が安い対価を払って取得したくなるようなアイテム設計があれば別かもしれませんが…。
賭博罪に該当しないようにカジノゲームを作るには?
ユーザーの経済的な損失を避ける!
カジノゲームにおいては、勝敗は偶然性により決定される要素が大きいため、①「偶然の勝敗により」という要素は避けられません。
また、勝敗により、ゲーム内アイテムなど、ユーザーの利益になるものの得喪を争うことになるため、②「財物や財産上の利益」の要件も満たします。
よって、ゲームの勝敗により、ユーザーに経済的な損失が生じないような設計にして、③「権利の得喪を争う」という状態を回避する設計にする必要があります。
この問題を考える際は、ユーザー同士の関係だけではなく、ユーザーとゲーム運営側の関係も考える必要があります。
1 ユーザーとゲーム運営者の関係
ユーザーが対価を払ってゲームに参加し、クリアできたらユーザーが払った対価の数倍の金額を得られるが、クリアできなかったら何も得られないという設計の場合、ユーザーがクリアできたら会社側が損をし、負けたらユーザーが損失を被る、という構造になります。
この場合は、ユーザーが支払った金額分のメリットを保証して、ユーザーが損失を被ることがないようにする必要があります。
2 ユーザー間の関係
ユーザー同士の勝負、競争などの結果により、ユーザーの掛け金が分配される場合は、ユーザー間に「得喪を争う」関係が生じます。
この場合は、1と同様にユーザーが経済的な損失を被ることがないような設計にすることが大切です。
もう一つ考えられる対応としては、ユーザーがその勝負、競争に支払う対価を賭け金とせず、あくまでも参加料とし、ユーザーが勝負等の結果により得られる利益とは無関係なものという設計にすることです。
この場合は、ユーザーが支払った金額に関係なく、得られる利益を設定する必要があります。
なお、どの程度の利益を設定するかについては、景品表示法に注視する必要がありますが、本記事では割愛します。
NFTを取り入れた場合に注意点はあるか?
NFTと賭博
NFTとは、[Non-Fungible Token]の略で、「非代替性トークン」などと翻訳されることが多いですが、その定義は固まっているとはいえない状況です。
ブロックチェーン技術を用いて取引される代替性のない電子データといえば、一般的に認識されているNFTとズレはないと思います。
NFTは、最初の販売時(一次市場)の価格を離れ、その後自由に売買が可能なものが想定されるため、価値の変動が期待されます。
NFTの獲得者による、NFTのマーケットによる自由な売買(二次市場)において価値が下がった場合に、賭博罪が成立するのかが問題になります。
すなわち、一次市場では賭博罪との関係で問題がなかった(勝負に負けて得たNFTが賭け金と同価値だった)が、その後、二次市場において、このNFTの価値が当初の価値より下落したような場合を想定しています。
この場合、ユーザーが支払った分より価値の低いものを保有していることになるため、実質的にユーザーが損失を被っているという意見もありました。
しかし、NFTの客観的・将来的な価値を、一次市場を離れて販売者が算定・決定することは困難です。
また、二次流通市場における価格形成は、一次販売時の価格設定と別個の要因・事情により行われるものであるから、二次流通市場で形成された価格により、一次市場における販売時の利益の得喪の有無を判定する必要はありません(参照:「スポーツコンテンツを活用したNFTのパッケージ販売と二次流通市場の併設に関するガイドライン」スポーツエコシステム推進協議会)。
この考え方について、経済産業省とスポーツ庁が共同で開催する研究会が取りまとめた「スポーツDXレポート」でも同様の見解が示されたことで、この考え方に倣えば危険性は低いことになります。
ただし、注意点として、一次市場における販売者が二次流通市場を設置して販売者が価格設定をしたり、自ら買い取りをすることは上記の考えにそぐわないので避けるべきと考えられています(参照:五団体ガイドライン)。
また、「ガチャ」のようなランダム型販売している商品を、一次市場と異なる価格で単品販売することは避けるべきと考えられています。
例えば、300円で、レア、スーパーレア、ウルトラレアのようなレアリティの差を設けている場合、それぞれ200円、300円、400円として販売すると、レアリティごとに価格差があることを販売者が自認する形になり、ガチャにおいて権利の得喪が生じていることになってしまいます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は、カジノゲームを安全に運営するために賭博罪について解説いたしました。
もっとも、あくまで、一般論となりますので、個別具体的な対応や検討が必要となる場合があります。
ゲームの仕様に関し、疑問が生じた場合は、弁護士等の専門家への相談を強くお勧めいたします。
弊所では、数多くのゲーム会社、ウェブサービス運営会社様からご依頼をいただいており、様々なゲームやサービスの仕様に関する法令調査や、助言等を行ってまいりました。
問題の仕様について、「これは違法となります」といった回答だけではなく、「こういう仕様にすれば実現できそうだ」、「こちらの方が売上にも貢献できるのではないか」など、これまでの経験を踏まえ、個別の案件に応じた、対案の提示や、具体的なアドバイスを提供できるよう心がけております。
お気軽にご相談いただけますと幸いです。
おまけ
海外で運営されているオンラインカジノを利用して賭博をすることは適法だと主張する見解があります。
刑法が属地主義(日本で行われた犯罪にのみ適用されるという考え方)を取っており、海外で運営されているオンラインカジノをプレイするのは、ラスベガスのカジノで賭博しているのと同じだから問題ないという見解です。
仮に日本で賭博が行われていると考えられるとしても、賭博罪は、賭博開帳等図利罪(刑法186条)が成立しなければ成立せず、海外の運営者に日本の刑法は適用されず同罪が成立しないから、賭博罪も成立しないという見解もあります。
しかし、賭博罪の条文である刑法185条において、賭博罪の成立要件に賭博開帳等図利罪は含まれていません。最高裁昭和24年判決も否定しています。
また海外で運営されているサイトだとしても、実際は賭博行為を行なっているのは日本なので、ラスベガスでカジノをプレイするのと同じという理屈は無理があります。
実際に、警察は、オンラインカジノは違法だと明言しており、オンラインカジノの利用者や国内の運営業者を逮捕しています。
まだ立件されていないオンラインカジノもありますが、いつ立件されてもおかしくなく、そのようなカジノをプレイしても問題ないということにはなりません。
くれぐれもご注意ください!