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エンタメ・知財法務

2024.07.25

生成AIと著作権法〜生成AIによるイラスト等の著作物の利用と注意点〜

近年、AIが著しい進化を遂げており、ChatGPTが大きな話題を集めました。

また、AIは様々な分野、用途で使用されており、エンタメ業界においては、生成AIの台頭により、コンテンツの多様化が進んでいます。

例えば、イラストを制作する際、生成AIを使用すれば、自分で一からイラストを考えて制作しなくても、高品質のイラストが即時に完成します。

自分で一からキャラクターのイラストを制作する場合、キャラデザを決めた上で、Illustratorなどのソフトウェアを使用し、細かく描き込みを行っていく必要があり、ものによっては膨大な時間を要します。

他方で、生成AIを使用すれば、生成AIによって制作されたデータをそのまま使用するか、これを元に、多少調整を加えるなど、作業時間の大幅な短縮が可能です。

これは、音楽、動画、ソースコード等でも同じことがいえます。

では、生成AIにより制作されたイラストを、販売したり、ゲーム等のエンタメコンテンツに組み込んだりすることにリスクはないのでしょうか。

最近も、某有名ゲームのキャラクターに似通ったキャラクターを使用したゲームが大ヒットし、これが、生成AIを使用したのではないか、パクリではないかと話題になりました。

今回は、生成AIにより制作された著作物と、著作権法の問題について、イラスト制作を題材として解説をいたします。

CONTENTS

執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐

大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。

著作権法の基礎知識

著作権とは

著作権とは、著作物に発生する権利の束のことをいい、「著作権」という名称の権利は存在しません。

著作物を複製する権利(複製権)、著作物を上演する権利(上演権)、著作物をインターネット上にアップロードする権利(公衆送信権)など、著作権法は、細かい著作物の利用に関する権利を規定しており、これらをまとめて「著作権」と呼びます。

著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されます(著作権法2条1項1号)。

人が何か思想や感情や考えをもって、それに基づいて創作的な表現行為をすればそれは基本的に著作物に該当し、著作権が自動的に発生することになります。

したがって、棒人間のような簡単なものを除いて、イラストの制作を行えば、それは著作物に該当し、原則として、制作者に著作権が帰属することとなります。

なお、企業に勤めている方が、企業の業務としてイラストを制作した場合は、職務著作に該当し、当該企業に著作権が帰属します。

著作者人格権とは

著作権法は、著作権の他、「著作者人格権」という権利を定めています。

著作者人格権は、著作物を公表する権利(公表権)、著作者の氏名等を表示しまたは表示しない権利(氏名表示権)、著作物の同一性を保持する権利(同一性保持権)、著作者の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用されない権利(名誉声望保持権)の4種類があります。

著作権は、著作物の財産的側面を保護する権利で、著作者人格権は著作者の作品に対する思いのようなものを保護する権利といえます。

イラストと著作権法

上記の通り、著作権は著作物の制作と同時に発生するものですので、他人が制作したイラストを無断で使用した場合、著作権侵害や著作者人格権侵害となります。

以下、どのような権利侵害があり得るのか解説いたします。

 

事例①

他人が制作し、インターネット上に掲載されているイラスト画像を、保存し、そのまま複製して、ツイッターに投稿してしまった

→著作物であるイラストを複製し、公衆送信をしていることとなるため、複製権(21条)及び公衆送信権(23条)を侵害することとなります。

また、著作者の氏名や活動名が掲載されていたのに、これを掲載しなかったり、いわゆるウォーターマークなどを削除したような場合は、氏名表示権(19条)を侵害することとなります。

 

事例②

他人が制作したイラストを、少し書き換えて、これを販売した

→この場合、他人のイラストと、書き換えたイラストがほとんど同一のものであれば、複製権(21条)侵害となります。

他方で、二次創作物であると判断される場合は、翻案権(27条)侵害となります。

いずれのケースにおいても、著作物を改変したこととなり、同一性保持権(20条)侵害となります。

また、これを販売する行為は譲渡権(26条の2)侵害となります。

両者のイラストの関係が複製であれば、当然に譲渡権侵害となり、翻案(二次創作)の関係にあれば、原著作者の権利(28条)としての複製権侵害となります。

生成AIの学習段階での著作権法上の整理

生成AIの仕組み

生成AIは、まず、学習用のプログラムが存在し、数多くのイラストを学習し、モデルを形成します。このモデルのことを、学習済みモデルといいます。

この学習済みモデルを組み込んだものが生成AIと呼ばれるもので、特定の指示を行った結果、学習済みモデルが作用して、成果物を制作する仕組みとなっています。

特定の指示とは、例えばこのイラストをベースにしたいという指示であったり、ジャンルや雰囲気の指示であったり、様々です。

生成AIの学習段階での著作物の利用と著作権法30条の4の関係

生成AIは、上記の通り、学習済みモデルを生成するにあたり、膨大な量のイラストデータを読み込みます。

多くの場合は、インターネット上からこれを集めることとなります。

この場合、著作者に無断でイラストデータを収集することになるため、サーバ上等で複製行為が行われ、複製権侵害が成立するのではないかという問題があります。

これについては、権利侵害の例外規定として、著作権法30条の4が新設(平成24年法改正)されており、権利侵害ではないと整理されています。

同条は、AIの開発や学習段階で著作物を利用することは、著作物を入力し解析しているに過ぎず、本来的な利用ではないため、著作者に不利益をもたらさないであろうという考えと、文化・産業の発展のためには、AIによる著作物の利用を認めるべきだという議論のもと創設されたものです。

一号から三号に規定される場合は例示的な規定となっており、これに加えて、「その他当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に、著作物の利用が認められています。

AIと関係があるのは、二号と三号となり、AIによる学習という情報解析のための利用が二号に該当すると考えられます。

また、いわゆるコンピュータの情報処理の過程において、バックエンドで著作物が複製される行為などが考えられるため、三号でより広範な例外を定めた形となります。

また、「享受」とは「視聴者等の知覚・精神的欲求を満たす効果を得ること」を意味し、享受を目的としない利用についても、包括的に権利侵害の例外に含めた結果、AIによる学習は細かい仕組みにかかわらず、30条の4で許容されるという結論となります。

著作権侵害の前提条件

イラストそのものをトレースしたり、転載したりすれば、権利侵害が成立するのは誰の目にも明らかです。

もっとも、生成AIによって制作されたイラストは、既存の著作物をそのまま利用していることはなく、学習済みモデルにより、別のイラストの要素が取り込まれるため、直ちに権利侵害であるということはできません。

そこで、著作権の侵害が生じるのはどういう場合であるのか、整理が必要となります。

 

(1)アイディアは保護されない

著作権法は、著作物に表れる具体的な表現を保護する法律です。

したがって、アイディアそれ自体が保護されることはありません。

これを保護してしまっては、何も作れなくなってしまい、文化の発展に寄与することを目的とする著作権法の目的を阻害してしまいます。

例えば、ワンピースという漫画のキャラクターで考えてみましょう。

主人公である「ルフィ」を思い浮かべると、①海賊、②手足が伸びる、③陽気、④麦わら帽子をかぶっている、⑤大食い、⑥仲間思い、など様々な設定が挙げられます。

しかしながら、この設定自体は表現ではなく、アイディアにとどまるので、著作権法上は保護されないということになります。

したがって、これらの要素を全て満たしたキャラクターを創作して、漫画を描いたとしても、そのキャラクターがルフィの容貌と全く異なるキャラクターであれば、それは著作権侵害とはなりません。

もちろん、そのようなキャラクターで漫画を描いた場合、パクリだということで炎上したり、全く人気が出なかったり、デメリットもたくさんあると思いますが、法的には「適法」となります。

したがって、例えば「イラストのタッチ」や、「イラストの色味」、「イラストの雰囲気」といった要素のみが似ていたとしても、それ自体は、著作権法上保護されないということなります。

 

(2)著作権侵害の要件

では、アイディアではなく、著作物の具体的な表現を利用していると言える場合はどのような場合でしょうか。

これについては、①類似性②依拠性が必要と解釈されています。

要するに、既存の著作物に似通っていて、その著作物に基づいて創作されたといえることが必要です(依拠性)。

依拠性が要求されるのは、著作物は無限に存在するため、新しく制作したイラストが、たまたま既存の著作物と似ていたからといって全て著作権侵害としてしまっては、創作行為自体が阻まれてしまうからです。

類似性については、既存の著作物の本質的特徴が感得できるか否かによって判断されます。

これがなかなか抽象的で難しいのですが、裁判などにおいては、既存の著作物の本質的特徴を列挙して、問題となる著作物とどの程度共通性があるか否かを立証していくこととなります。

生成AIにより制作された著作物が著作権侵害となる場合

したがって、生成AIにより制作されたイラストが、既存のイラストと比べた際に、①類似性と、②依拠性が認められるのであれば、著作権侵害が成立します。

 

(1)①類似性

生成AIが実際の創作行為を行なっていることとなりますが、これを指示・利用しているのは人間であり、かつ、それを販売したり、公衆送信(インターネットへのアップロード)をするのも人間であるため、①の類似性を判断するに際して、生成AIによる制作行為と、人間による制作行為を区別する必要はないと考えられています。

類似性が認められる生成AIの生成物が存在するのかという疑問もありますが、弊所にも最近生成AIによって制作された生成物が自分の著作物に似ているといった相談を受けることがあります。

その経験から言うと、類似性が認められると思われる生成物というのはたしかに存在するように見受けられます。

 

(2)②依拠性

他方で、②の依拠性については、これをどう考えるか、非常に難しい問題です。

この点について、裁判例を調査しましたが、この点について論じた裁判例は見当たりませんでした。

文化庁の資料によれば、

①AIの学習に用いられていれば、依拠性を認めてよいのではないか

②AI生成物が、学習に用いられた本の著作物と類似していれば、依拠性ありと推定して良いのではないか(その後は、AI利用者の側が、元の著作物がAI生成物の作成に寄与していないことを立証すべき)

③「AI利用者自身の独自創作であること」に加えて、「AI自体が学習対象の著作物をそのまま出力するような状態になっていないこと(AIの独自作成であること)」の両方がいえない限りは依拠性ありと考えるべきではないか

などの考え方が示されています。

生成AIにより制作された著作物と依拠性の問題

ここからは、私見となりますが、より深く検討を加えます。

 

①生成AIの利用者自らが、生成AIに既存の著作物を読み込ませ指示を行った場合

生成AIの利用者自らが、学習モデルに指示をする上で、既存の著作物を読み込ませて生成物を制作した場合は、依拠性ありと考えて問題なく、逆にこのケースで依拠性を否定することは困難であると考えます。

例えば、Xというイラストに価値を見出した利用者が、Xをベースにして、生成AIを使用し、Yという生成物を制作した結果、XとYが類似しているのであれば、通常の著作権侵害の場面と異なる検討を加える必要はないはずです。

 

②生成AIの学習過程で既存の著作物が読み込まれていた場合

依拠性というのは既存の著作物に依拠することです。

無限にある著作物を調査するのは不可能であり、著作物を全て調べなければ創作活動ができないのであれば、文化の発展が阻害されてしまうため、著作権侵害の要件として、依拠性が求められます。

この目的から考えれば、生成AIにどのような著作物が学習されているかは、その範囲が膨大であり、利用者において調査不可能であるため、既存の著作物が生成AIの学習の際に読み込まれていたことのみをもって、依拠性ありと考えるのは乱暴な印象があります。

もっとも、ここで依拠性を認めなければ、次のような問題が生じてしまいます。

すなわち、生成AIの利用者は、具体的な指示は行なっていないものの、たまたま誰がみても、有名な著作物Xに類似している生成物Yが完成してしまった場合、生成物Yに依拠性を認めなければ、生成AIの利用者はYを利用して、お金儲けができてしまう可能性が生じます。

このような結論は、生成AIの利用者にフリーライドを認めるに等しく、著作権者がおよそ保護されなくなってしまい、明らかに妥当ではありません。

したがって、生成AIに読み込まれているのであれば、原則依拠性は認めた上で、生成物の制作行為それ自体は、生成AI利用者の故意過失を否定することにより責任追及を否定し、他方で、利用者が、生成物が既存著作物に類似していることを知りながらこれを利用する行為(譲渡、公衆送信等)については、利用者の故意過失を認め責任追及を可能とするような整理が、バランスの良い結論であるという印象です。

なお、依拠性が認められる以上は、故意過失がなかったとしても、著作権者に利用の停止を請求した場合は、これに応じなければなりませんので、注意が必要です(112条)。

あくまで、私見となりますので、別の考え方もあり得るでしょう。

このあたりの議論はまだそれほど深まっていないため、裁判例の蓄積等が待たれるところです。

まとめ

今回は、生成AIによって生成された著作物の利用と、著作権侵害の問題について解説いたしました。

以上の検討結果を踏まえると、生成AIによる生成物であっても、他人の著作権を侵害する場合が存在します。

したがって、自ら既存の著作物Xを利用するような指示をして生成物Yを制作した場合に、XとYの間に類似性が認められるのであれば、生成物Yは使用しないのが安全といえます。

また、そのような指示を行っていない場合であっても、生成AIによる生成物が、自分が知っている著名な著作物に類似してしまっているような場合も、これを使用することは避けた方が安全だと考えます。

これについては、炎上リスク等もあるため、著作権法の観点からだけでなく、そういった観点からも避けた方が無難といえるでしょう。

AIに関する法的問題は著作権法に限らず、さまざまな法分野で議論が活発にされているところです。

今後AIの時代が到来することは間違いありませんので、弊所でも関心をもって、AIと法律に関する議論を行なっています。

AIを利用するビジネスを検討されている方はお気軽にご相談ください。

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