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エンターテイメントに関する法務や、インターネットトラブルについて、実務を交えて随時コラムを更新しております。
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エンタメ・知財法務

2024.09.14

NFTゲーム(ブロックチェーンゲーム)〜NFTを用いたゲーム開発に必要な注意点〜

エンタメ業界の構造を変えるのではとまで言われたNFT。

一時期の熱狂は少し沈静化した空気もありますが、徐々にですが、確実に、NFTを採用するゲーム(以下「NFTゲーム」といいます)が増えてきています。

しかし、「NFT」というワードの認知度に比べ、その実態の理解はさまざまであり、いざNFTを採用するゲームを開発しようと思っても、法的にどのような点に気をつけるべきかという情報がなかなかまとまっていないのが現状です。

かといって、他社の動向を見ているだけでは、スピードの速いゲーム業界の中で遅れを取ってしまいます。

そこで、NFTゲームの開発を検討している方々に向けて、検討の足がかりになるような内容をお伝えできたらと考え、本コラムを執筆いたしました。

皆様の事業拡大の参考になれば幸いです。

CONTENTS

執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
カウンセル弁護士 佐藤 匠

大手のゲーム開発会社や外資系の動画配信事業会社に社内弁護士として勤務し、
各種契約や知的財産などの法務を担ってきました。
現在はエンタメ業界を中心に、広く企業法務全般に力を入れています。

この記事を3行でまとめると・・・

NFTをゲームに取り入れることにより、新しいユーザー体験を創出することが可能になる。

NFTゲームの運営が、資金移動業などとみなされないように、機能設計に注意が必要。

従来のオンラインゲームに比べ、景品表示法違反にならないような慎重な検討が必要。

NFTとNFTゲーム

NFTとは

NFTとは、「Non-Fungible Token」の略で、「非代替性トークン」などと翻訳されることが多いですが、その定義は固まっているとはいえない状況です。

ブロックチェーン技術を用いて取引される代替性のない電子データといえば、一般的に認識されているNFTとズレはないと思います。

NFTの特徴

(1)唯一無二

NFTは、上記の通り「代替性」がありません。すなわち、唯一無二である(と証明可能な)デジタルデータを生み出すことができます。

これにより、後に言及するような、NFTデータの保有、譲渡などを実現することができます。

(2)改ざん防止

NFTにはブロックチェーン技術が用いられており、多数のノードで情報が管理されるため、情報の改ざんが大変困難です。

そのため、データの改ざんを防止することができます。

(3)その他

誰でも参加可能なパブリックブロックチェーンを用いたNFTであれば、その取引履歴が世界中に公開されて、常に第三者の検証に晒されることになるため、透明性があり、不正な取引や、贋作の取引を回避しやすくなります。

また、仕様により、NFT転売時におけるロイヤリティの自動分配機能など、さまざまな機能を追加することができます。

NFTゲーム

従来のゲームでは、ゲーム内で獲得したキャラクターや装備品等のアイテム、モンスターなどは、そのゲームでしか利用できないものであり、切り離すことはできないものでした。

その現金化は、リアルマネートレードと言われるアカウント売買によるしかありませんでしたが、ゲーム会社としては、トラブル防止や、ゲーム内アイテムへの価値の付与に伴うさまざまな規制への対応の発生を回避するために、利用規約等でリアルマネートレードを禁止していました。

NFTゲームでは、二次流通市場などの併設またはプラットフォームの利用により、ゲーム内アイテム等を現金化する余地をユーザーに持たせることをその魅力の一つとしています。

「Free to Play」から「Play to Earn」へといったゲームのパラダイムシフトを想起させる用語も生まれました。

NFTゲームにおいては、上記NFTの特徴により、ゲームが終了してもゲームアイテムをユーザーが保持し続けられるようにしたり、ユーザーがNFT売買によって収益を得ることを可能にしたり、チート行為発生頻度を大幅に低減させることなどを実現できます。

NFTの法的性質

民法上、所有権の対象となるのは、有体物に限ります(民法206条、同85条)。

NFTはデータであるから、無体物ということになり、所有権の対象ではありません。

そのため、NFTは、発行者と取得者の合意に基づく債権的な権利を有するものと考えることになります。

具体的には、利用規約、販売規約、個別の販売ページに定められた販売条件等で定められることになります。

NFTゲームにおいては、キャラクター、モンスター、武器等のアイテムなど、デジタルな創作物がNFTとして提供されることになりますので、NFTを保有することは、著作物の利用を許諾されている状態と整理されることになります。

気を付けるべき機能

収益分配の受取機能

NFTの販売により集められた金銭を元手に事業を行い、その収益を分配し、NFT保有者がこれを受け取ることができる機能がある場合は、金融商品取引法上の「有価証券」(金融商取引法第2条1項・2項)に該当する可能性が生じます。

NFTゲームにおいて、NFTにこのような機能を持たせることはあまり考えられませんが、例えば、10万円以上課金したユーザーに特定のNFTを付与し、この課金をもってアップデートを行い、アップデート後の収益の一部をNFT保有者に還元するというような施策を行う場合は十分な注意が必要です。

「有価証券」に該当するとなった場合、金融商取引法に従い、業登録、NFT発行時の有価証券届出書作成・提出・開示などが必要となり、人員・体制整備、監査法人との契約などにより、多大な人的・経済的コストを強いられます。さらに、同法違反となると、課徴金納付命令、刑事罰などの重い制裁も待っています。

代金決済または送金機能

NFTが法定通貨で販売され、不特定多数の者や、特定の発行体・サービスにおいて、その商品またはサービスの代金支払い手段として使用できる場合は、資金決済法上の「暗号資産」や、「前払式支払手段」、「電子決済手段」に該当するおそれが生じます(資金決済に関する法律第2条1項・5項・14項)。

この場合は、いずれに該当するかによって必要な対応は異なりますが、届出、登録などにコストがかかります。

また、NFTの発行者が、そのNFTの保有者に対し、現金への払い戻しを認める場合は、隔地者間の送金手段としての用途が生じるため、「為替取引」(銀行法2条2項2号、資金決済法2条18項)に該当するおそれがあります。

銀行業に該当するとみなされると免許を取得する必要があり、資本金も20億円以上が求められ、ハイレベルな経営基盤の構築が求められます。

資金移動業の場合は登録が必要になりますが、こちらも銀行業ほどではないにせよ、人員・体制整備を含む多大な人的・経済的コストの負担が必要になります。

もちろんこれらの登録等を行わずに事業をしていたとなれば、重い制裁が課されることになります。

NFTの取引に関して注意すべき規制

景品表示法

従前のアプリゲーム等においては、ゲームを楽しんでもらうためにユーザーが様々な形でゲーム内アイテムを得る仕様を備えたり、キャンペーンによるプレゼント配布が行われるなどの施策が実施されたりしてきました。

これらの施策においては、景品表示法に注意する必要があります。

ゲーム事業を営む会社で法務機能を担う方々は、この規制と睨み合う日々のはずとお察しします。

筆者もゲーム事業会社で組織内弁護士をしていた経験があり、あの日々を思うと懐かしい気持ちになります。

 

NFTの場合、個別取引が可能であることから、その経済的価値が明確になりやすいため、NFTが獲得できるゲームの仕様やキャンペーンの設計にはより慎重な検討が必要になります。

簡単にまとめると、「景品類」とは、以下の要素により定義されます。

①顧客を誘引するための手段として(顧客誘引性)、

②事業者が自己の供給する商品または役務の取引に付随して相手方に提供する(取引付随性)

③物品、金銭その他の経済上の利益(経済的利益)

 

また、景品付与の方法としては、「一般懸賞」、「共同懸賞」、「総付景品」に分類されます。

「一般懸賞」とは、商品やサービスの利用者に対し、くじ等の偶然性、特定行為の優劣等によって景品類を提供する行為のうち、「共同懸賞」以外のものをいいます。

「共同懸賞」とは、複数の事業者が共同で実施する懸賞をいいます。

「総付景品」とは、懸賞によらず、一般消費者に対して提供する景品のことをいいます。300円課金した場合に必ず提供されるプレゼントなどがこれに該当します。

NFTを景品にする場合の注意点

NFTは価値の変動を伴いますので、いつの時点の価値を基準に取引価格および景品の価格を算定するかが問題になります。

少なくとも景品の提供時点で景品規制が遵守されている必要があるとはいえますので、景品の提供に期間がある場合は、この期間中に大きくNFTの価値が変動する場合は、景品類の差し替えや、景品の提供中止などの対応ができるように、事前にそれを含めたルール設計を検討しておく必要があります。

その他に注意すべき規制

NFT販売は、通常、インターネット販売となり、特定商取引法上の「通信販売」(特定商取引法第2条第2項)に該当します。

誇大広告の禁止などの規制がありますが、最も基本的な対応として、「特定商取引法に基づく表示」を定める必要があります。

また、ガチャなどによりNFTを販売する場合は、賭博罪(刑法185条)の成立に注意しなければなりません。

こちらは別コラムにてまとめていますのでご参照ください。

ギャンブル風ゲーム~NFTも含めて、賭博罪その他の注意すべき法的項目を解説します~

NFTゲーム設計時における注意点

利用規約の整備

冒頭に述べた通り、NFTの定義は一般に固まっている状態ではなく、その認識も人によって様々です。

この認識のズレは、紛争の火種になり得ます。

例えば、ユーザーが、NFTは対象のゲームサービスが終了した後も別途利用できるものと認識しているのに対して、発行者はそのゲームサービスが終了した後の利用先を設ける予定がなかったという場合、NFT購入時の説明が不十分だと、発行者側が賠償責任等を負う事態に発展する可能性があります。

そのため、従前のNFTと無関係なゲームに比べて、より詳細かつ具体的な利用条件に関する記載を設けておく必要があります。

例えば、NFTを譲渡する場合における発行者の承諾の要否、NFT保有者が利用できる範囲の内容、利益分配の有無、サービス終了時の利用範囲などを盛り込むことが考えられます。

マーケットプレイス運営における注意点

最後に、マーケットプレイス運営における注意点についても簡単に言及しておきます。

マーケットプレイス運営においても、利用規約の整備が肝になります。

発行者への利益分配の有無、NFTの譲渡が行われた場合の権利処理、利用手数料の控除の有無、ガス代(ブロックチェーン取引時に必要となる手数料)等利用者に生じる費用負担の有無などを盛り込むことが考えられます。

まとめ

依然として、エンタメ業界におけるNFTに対する注目度は非常に高い状況です。

競争の激しいエンタメ業界で、新しい価値創出のアイデアを日々思案されている方々の中には、NFTに活路を感じる方も少なくありません。

しかしせっかくの企画も、法的に足をすくわれては非常にもったいないです。

そのようなことがないように、各企業の法務担当者の方も安全な設計に奮闘されているとは思いますが、明確な規制が整備されておらず、実例も積みあがっていない段階で安全性のラインを引くのはかなり難儀な業務と存じます。

事業を止めず、安心してアクセルを踏んでいくために、ゲーム事業について深い知見のある弊所にてお手伝いできることがありますので、お気軽にご相談いただけますと幸いです。

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