エンタメ・知財法務
2024.09.21
ゲーム事業に必要な法律上の表示や届出〜資金決済法、特定商取引法、電気通信事業法、個人情報保護法の対応〜
アニメ、映画、漫画などのエンタメコンテンツは、ゲームとの相性が良いため、コンテンツの更なる拡大のための選択肢の一つとして、ゲーム展開が考えられます。
ゲーム業界は発展を続けており、既に別のエンタメ事業を営んでいるが、新たにゲーム事業を始めたいといった相談を多く受けます。
ゲームのリリースにあたっては、様々な法律が関係してくるため、今回は、どういった法律上の届出や表示が必要であるか、資金決済法、特定商取引法、電気通信事業法、個人情報保護法に関して解説いたします。
これからゲーム事業を始めたい企業や個人事業主の方の一助になれば幸いです。
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執筆者プロフィール
弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐
大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。
特定商取引法上の表示
特定商取引法とは
特定商取引法とは、事業者による違法・悪質な勧誘行為を防止し、消費者の利益を守るための法律です。
特定商取引法は、対象となる類型を、訪問販売、通信販売、連鎖販売取引(所謂ネズミ講やマルチ商法)、特定継続的役務提供(エステや語学教室)などに分類し、それぞれの類型に応じて、種々の規制を設けています。
例えば、氏名等の明示義務、不当な勧誘行為の禁止、広告規制、書面交付義務といった行政規制と、クーリング・オフ、意思表示の取り消し、損害賠償等の額の制限といった民事上のルールが規定されています。
特定商取引法上の表示
ゲームの場合、広告収益型の無料ゲームであれば、基本的に特定商取引法は気にしなくても問題ありませんが、ゲーム自体を有料とする場合や、課金型のゲームの場合には、「通信販売」に関する規制が適用されます。
具体的には、販売条件等についての情報を、消費者に明示する義務が生じます。
当該義務を履行するために、ゲーム事業者は、「特定商取引法上の表示」という文書を用意して、ゲームの課金画面等に実装しているのです。
具体的に、記載が必要な項目は以下のとおりです。
例えば、ゲームの場合は、最低限以下のような記載することになります。
少しマニアックな話になりますが、前払式支払手段発行者が行う同法第3条第1項に規定する商品の販売は適用除外となり、特定商取引法上の表示が不要となります(特定商取引法26条1項8号ニ、同法律施行令11条別表二47)。
これは、資金決済法上の表示が義務付けられているため、特定商取引法上の表示がなくとも、消費者保護が図られているためです。
したがって、厳密には、アプリ自体は無料で、アプリ内でゲーム内通貨課金の機能のみを設けているゲームであれば、特定商取引法上の表示は不要となります。
しかしながら、ここでいう「前払式支払手段発行者」は、未使用残高が1000万円を超えて届出をした後の事業者を指しますので、結局リリース時点では特定商取引法上の表示が必要となりますし、最近のゲームはデイリーパックや拡張機能の販売等、ゲーム内通貨以外の課金が導入されているケースが多い状況です。
したがって、あまり深く考えずに、特定商取引法上の表示を置いておくのが無難であり、それ以外の選択肢は採用し難いと考えられます。
資金決済法上の表示と届出
資金決済法とは、「資金決済に関する法律」のことで、簡単にいうと、資金決済に関する種々の規制や取り決めを定める法律です。
特に、ゲームやアプリ、ウェブサービスとの関係では、資金決済法の中の前払式支払手段の発行に関する規制をケアする必要があります。
ジュエルや魔法石など、呼称はゲームによって様々ですが、課金をして購入できるゲーム内の通貨を発行する場合、資金決済法の適用を受けます。
具体的には、資金決済法に基づき、消費者に対して、情報提供を行う必要があり、これが、「資金決済法上の表示」と呼ばれる文書です。
また、ゲーム内通貨を発行し、ユーザーが使用していないゲーム内通貨の合計額が1000万円を超えた場合、届出が必要となります。
詳細は、別の記事でまとめておりますので、そちらをご確認ください。
「アプリ・ゲーム・ウェブサービスでポイントを発行したい~ゲーム内通貨に関する資金決済法の対応 前払式支払手段とは?~」
電気通信事業法上の届出と外部送信の表示
電気通信事業法とは
電気通信事業法は、電気通信事業者の提供する、携帯電話、インターネット通信といったサービスは公共性が高いため、その事業者の適正かつ合理的な運営をするために、種々の規制を設ける法律です。
電気通信事業法上の届出
(1)電気通信事業者とは
電気通信事業者は、自社が電気通信事業を行っている旨、登録や、届出を行う必要があります。
電気通信事業とは、電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業をいいます(電気通信事業法2条4号)。
電気通信役務とは、電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいいます(同法2条3号)。
(2)ゲーム制作で必要となる届出
ゲームを制作する上で、ユーザー間の個別チャット・DM・メッセージ機能のような「クローズドチャット」と呼ばれる仕様を採用する場合、他人の通信を媒介していることになりますので、電気通信事業法上の届出が必要となる点に注意が必要です。
具体的には、総務省の様式に従い、①届出書、②ネットワーク構成図、③電気通信役務に関する書類、④定款、⑤登録事項証明書又は住民票の写しを届け出ることとなります。
届出となりますので、事業者の適正等は判断されず、形式に不備がなければ受理される形となります。
届出が受理されると、総務省から、電気通信事業者としての番号が付与され、届出を受理した旨の書面が送られてきます。
何か変更があった際の変更届出を行う際等、この番号が必要となりますので、この書類は大切に保管する必要があります。
また、書類を提出する前に、提出する書類の写しを必ず保管しましょう。
ネットワーク構成図等を変更する場合、以前に提出したものが手元にないと、対応する上で不便が生じます。
(3)掲示板機能を採用する場合
ゲーム内に、掲示板機能のような仕様を採用する場合は、不特定多数の利用者がメッセージを交換する場を提供しているにとどまりますので、他人の通信を媒介しているとはいえず、届出は不要となります。
但し、ゲーム内で、特定のグループ・チーム等を組んで対戦をするようなゲームの場合、当該グループ等に所属するユーザーしかその内容を閲覧できないため、「クローズドチャット」として、電気通信事業法上の届出を行う必要がある点に注意をしてください。
(4)媒介相当電気通信役務の提供
最近の法改正によって、媒介相当電気通信役務を提供する場合、総務大臣による認定を受けた後に届出が必要となりました。
この媒介相当電気通信役務というものは、不特定の者から受信した情報をサーバ等の記録媒体に記録し、当該記録された情報を不特定の者に送信するなどの電気通信役務(不特定者間の情報の送受信を実質的に媒介するサービス)のうち、①利用者数が極めて多く(1,000万以上)、②主として不特定の利用者間の交流を目的としたものをいいます。
これは、SNSや検索サービスのうち、特に利用者の多いものを想定したものであり、現状、ゲームはここには入らないと整理されているように見受けられますが、掲示板でのやり取りを主たる目的としたゲーム等もないとは言えませんので、ゲームの内容や仕様、ユーザーの交流の頻度等によっては、総務省への確認をしておいた方が安全かと思います。
とはいえ、1000万以上の利用者という要件があるので、通常は気にしなくても良いでしょう。
外部送信規律
(1)外部送信規律の概要
電気通信事業者のうち、「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」を提供している電気通信事業者については、届出のほか、外部送信規律に従わなければなりません(電気通信事業法第27条の12)。
具体的には、電気通信事業者が、利用者の端末に対して、当該端末に記録された利用者に関する情報を外部に送信するよう指令するプログラム等を組み込む場合、電気通信役務を提供する事業者は、当該プログラム等により送信されることとなる利用者に関する情報の内容や送信先について、当該利用者に確認の機会を付与する義務が課されます。
(2)対象となる事業者
上記の義務が課されるのは、「利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」を提供する電気通信事業者となります。
具体的には、以下のいずれかの電気通信役務のうち、ブラウザやアプリケーションを通じて提供されているものが該当します(電気通信事業法施行規則(以下「規則」という。)第22条の2の27)。
①利用者間のメッセージ媒介等(同条第1号)
②SNS、電子掲示版、動画共有サービス、オンラインショッピングモール等(同条第2号)
③オンライン検索サービス(同条第3号)
④ニュース配信、気象情報配信、動画配信、地図等の各種情報のオンライン提供(同条第4号)
ゲーム事業者の場合は、電気通信事業法上の届出と同様に、「クローズドチャット」機能を実装している場合に、上記の①に該当するとして、対応が必要となります。
(3)具体的な対応
具体的に必要となる対応は、①送信されることとなる利用者に関する情報の内容、②当該情報を取り扱うこととなる者の氏名又は名称、③当該情報の利用目的を通知又は公表となります。
「情報の外部送信について」「外部送信ポリシー」などの表題の画面を作成した上で、これをアプリ上や、Webサイト上に表示する必要があります。
例えば、以下のような内容となります。
個人情報保護法とプライバシーポリシー
ユーザーの個人情報を収集する場合、個人情報保護法が適用されるため、「プライバシーポリシー」といった文書を用意するのが一般的です。
ユーザーの個人情報を一切取得しないようなゲームもありますが、登録制のゲームや、問い合わせフォーム等を設置する場合は、基本的には用意した方が無難です。
これは、個人情報保護法上、取得する個人情報の内容、個人情報の利用目的等の明示が要求され、また、第三者への提供については、承諾が必要となるため、これらをカバーする目的で作成されるものです。
プライバシーポリシーについては、別の記事で解説しておりますので、そちらをご確認ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ゲーム事業をやるためには、上記のような様々な法律をケアする必要があります。
他にも、ガチャとの関係では、景品表示法をケアする必要があるなど、ゲーム事業は、法務面で気を配るべき事項が多いといえます。
ゲームを開発・リリースした上で、後から法律違反が発覚した場合、仕様変更、行政対応等様々な対応やコストが必要となってしまいますので、開発前の段階で、一度専門家に相談することをお勧めいたします。