芸能関係
2024.11.16
芸能関係の契約トラブル〜悪質な業者による詐欺被害、いわゆるオーディション商法等について〜
政府や国民生活センターが注意を求めているように、芸能活動への憧れの気持ちにつけ込んだ悪徳な業者の勧誘等によって、多くのトラブルが発生しています。
自身の芸能活動に対する思いが強ければ強いほど、悪徳業者の思惑に嵌ってしまい、冷静な判断ができずに高額なお金を支払ってしまうケースが散見されます。
典型例は、「デビューできる」と言われて事務所と契約し、お金を騙し取られてしまったようなケースです。
今回は、そのような悪質な勧誘等について注意喚起するとともに、取るべき対応についてお話しできたらと考えています。
CONTENTS
執筆者プロフィール
弁護士法人LEON
弁護士 吉永 雅洋
生命保険会社での社内弁護士の経験をもとに、契約書のリーガルチェックをはじめ、
新規ビジネス等の法務審査、訴訟等の紛争解決等、多岐にわたる企業法務の業務に携わっております。
特に、IT関係やエンタメ関係の企業様からご依頼をいただいております。
また、事務所としてはインターネット問題に注力しており、誹謗中傷やリベンジポルノ等の問題解決にも日々尽力しております。
この記事を3行でまとめると・・・
悪質な業者との芸能関係の契約トラブルが多く発生している(いわゆるオーディション商法等)
悪質な業者とのトラブルに遭った際には、国民生活センターや弁護士等に相談する方法等がある
弁護士への相談の際は、事実関係や根拠を弁護士に十分に伝えた上で、対応方法等を含め検討することになる
芸能関係の契約トラブルについて
悪質業者との契約トラブル
芸能界を夢見る気持ちにつけ込まれてしまうことによるトラブルが多く発生しています。
街中やイベント会場でのスカウト、SNSのDMでの勧誘等のほか、自身で見つけたオーディションや業者の募集広告を見たりして、ご自身で連絡を取ったこと等をきっかけにして、悪質な業者とのトラブルに遭ってしまうケースが多く散見されています。
例えば、路上でスカウトされ、「すぐにドラマに出演できる」「アイドルデビューできる」などと言葉巧みに誘導され、プロモーションやオーディションに必要な金銭であるとして、金銭の支払いを求められて支払いをしたものの、業者が何も動いていないといったような事例です。
これらにまつわる国民生活センターへの相談件数は、毎年数百件を超えており、問題となっています。
オーディション商法
オーディション商法とは、オーディションをうたって事務所等に呼び出した相手に、面接・選考の後で、高額なレッスン受講契約等を勧誘する手口のことをいうものとされています。これについて、国民生活センターも注意するよう求めています(後掲の出典①)。
もっとも、オーディションをうたわない契約トラブルもありますし、必ずしも「オーディション商法」の「オーディション」という言葉にとらわれずに、広く、悪質な手口による芸能関係の契約トラブルに妥当する話として考えた方が良いように思います。
国民生活センターや政府が紹介する事例について
事例
【事例1】「テレビ番組に出られる」「仕事をたくさん紹介する」と言われたがレッスンも仕事もない
インターネット上で「テレビ番組の出演者募集」という広告があり、問合せた。面接で事務所に出向いたところ、合格を告げられた。所属契約について「うちに所属すれば確実にテレビ番組に出演できる。ダンスボーカルユニットを結成することが決まっていて、レッスンもあるから、ぜひメンバーになってほしい。あなたは向いている」と勧められた。また所属契約には費用がかかることを知ったが「今なら10万円の入会金が5万円。その他毎月約3万円かかるが、仕事はたくさん紹介する。所属枠は残りわずかなので早く決めて」と急かされ、その場で契約を交わした。その後事務所から番組出演の話は一切されず、レッスンもない。
出典①:独立行政法人 国民生活センター 令和4年2月24日 「【若者向け注意喚起シリーズ<No.9>】タレント・モデルなどの契約トラブル-あなたの夢やあこがれにつけ込んでくる事業者に気をつけて!-」https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20220224_1.pdf
【事例2】エキストラの募集に応募したら
インターネットでエキストラのバイトに応募し、面接に行ったら映画のオーディションの話があった。合格したが、映画に出るためにはレッスンが必要と言われ、約30万円の契約をした。しかし、1年経っても映画に出ることができない。「レッスンが終わったらすぐに映画に出ることができる」と言われていたのに、話が違う。
出典②:政府広報オンライン 内閣府大臣官房政府広報室 令和4年3月28日 「タレント・モデル契約のトラブルにご注意を! 契約前に、「確認」「相談」「冷静な判断」を」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201707/3.html
政府や国民生活センターによる注意の呼びかけ
政府は、オーディションに応募したり、芸能スクールを受講したりする前に、どの段階でどのような費用がかかるのかを十分に確認しましょう、といった注意の呼びかけをしています(前掲の出典②)。
また、国民生活センターは、「冷静」「慎重」な判断を心がけましょう、具体的な活動内容やサポート体制、費用面などをよく確認しよう、といった注意の呼びかけをしています(前掲の出典①)。
もっとも、芸能界への思いが強ければ強いほど、「冷静」「慎重」な判断ができないこともあります。
少し「変だな」と思っていても、悪質な業者は、言葉巧みにかわしたり、場合によっては、強い言葉を浴びせることで従わせているようなケースも多いです。
また、悪質な業者による、「業界に強いパイプがあるので、何も心配いらない」「業界のことは知らないでしょう、とにかく任せておきなさい」という常套文句に対して、「業界人と繋がりもないし、業界に詳しくないので、任せるしかない」として、従ってしまうのです(もちろん、正当な芸能事務所でも、このような話自体は出てくることでしょう。しかしながら、悪質な業者においては、言うような繋がりもなく業界に詳しくもないのに、このような発言をするのです)。
困った時にどうすれば良いか
困った時には、一人で考え込むのではなく、外部に相談されるのが良いものと思います。
ご家族やご友人等といった周りの方に相談されるのが、まずは第一歩かもしれませんが、周囲の方々も知見があるわけではなく、当然、日々相談を受けて対応をしているわけでもないので、どうしても相談機関や専門家等のような回答ができるわけではありません。
やはり、相談機関や専門家への相談をご検討されるべきだと思います。
国民生活センター、消費生活センターへの相談
公的機関が運営する消費者トラブルの相談を受け付ける組織である、国民生活センターや消費生活センターへの相談が考えられます。
国が運営する独立行政法人が国民生活センターで、地方公共団体が運営しているのが消費生活センターです。
相談をすれば、親身に相談に乗ってくれるかと思いますし、様々な助言を得られることでしょう。
ただし、具体的に代理人として相手方と交渉等をしたりすることはできないので、支払った金銭の回収の依頼等をすることまではできません。
弁護士への相談
実際に契約の解除や取り消し、支払ったお金の取り戻し等といった具体的な対応を求めることを希望される場合には、弁護士に相談することになります。
被害拡大を防ぐために、「これは明らかに詐欺」と強く疑うべき事情が出てきたような場合、「騙された、絶対におかしい」という根拠を得たような場合には、早期に弁護士に相談された方が良いものと思います。
また、詐欺の確信が持てなくとも、お金を支払ったのに、マネジメントを全くされていない、レッスンが全く実施されていない等であれば、債務不履行として契約解除ができる可能性があります。
ご相談の際には、事実関係を正確かつ適切に弁護士に伝えることのほか、どのような根拠があるかも、弁護士に知らせましょう。
弁護士に相談して、法的な対応が可能であるとの見通しとなった場合には、
①示談交渉
②民事訴訟
③刑事告訴(詐欺や脅迫等、刑法に違反する場合)
などの方法をとることが考えられます(上記①から③に関して、後述します)。
実際にとるべき対応は、弁護士と相談の上で、決めていくことになるかと思います。
事実関係に応じて法的構成等も変わってきますし、ご希望される内容によって主張内容等も変わってくるものと思います。
クーリングオフ制度も、制度としてはありますが、所定の要件が必要です。
おかしいと気付いて弁護士に相談する頃には、撤回や解除の期限を経過していることの方が多いように思います。
なお、詐欺等とまでは言えないものの、とにかく契約をやめたいということであれば、案件にもよりますが、契約終了に関する交渉等ができる可能性もあります。
一度、弁護士に相談してみれば、現状を変えることができるかもしれません。
その他、契約内容に疑問がある場合に、弁護士に相談してみるのも手です。
実際の対応について
①示談交渉
相手方と裁判外で交渉する方法です。
相手方に対して金銭の支払いを求める場合、詐欺事案であれば、詐欺取り消し、また、債務不履行事案であれば、債務不履行解除、といった契約終了の法的根拠を提示して、金銭の支払いを求めることになります。
その他、接近をしないこと等を求めるなど、相手方へ求めたいことをお伺いした上で、相手方に提示します。
②民事訴訟
相手方を被告として、裁判所に申し立てをする方法です。
上記①は相手方と任意での交渉になりますので、相手方が話し合いに応じなければ、訴訟等の法的措置をとることになります。
民事訴訟では、返金や損害賠償等を求めることが考えられます。
裁判所に申し立てをして、判決で自己の権利を認めてもらい、相手(被告)に支払いをしてもらうことになります。
もしも判決が出されても相手が支払わない場合には、判決をもとに強制執行を申し立てることも視野に入れることになります。
なお、訴訟であっても、その途中で和解によって解決することもあります。裁判所も関与する、裁判上の和解というものです。
もっとも、原告、被告の双方で合意に至らなければならないので、どちらか一方でも和解の意向がなければ和解が成立することはありません。
③刑事告訴
刑事事件化して、相手方への刑事処罰を求める方法です。
詐欺等の刑法に違反する場合には刑事事件化することも考えられます。
警察に対して告訴状を提出し、受理してもらうことになります。
事実関係の整理、刑法の適用、当てはめ、証拠の整理等をきちんと行う必要がありますので、刑事告訴を適切に行いたいとお考えの場合には、専門家である弁護士に依頼するのが良いものと思います。
進め方等
とり得る方法の検討のほか、具体的な進め方等については、弁護士と詳しく話をして決定することになります。
案件内容や相手方の性質等によって、とるべき手段や進行が変わってきます。
もちろん、お客様のご意向が大切であり、それに合わせた戦略を立てていくことになります。
いずれにしても、対応経験がある弁護士に相談をするのがベストといえるでしょう。
まとめ
芸能関係の契約をした業者について、「明らかにおかしい」と不審に思った場合には、弁護士へのご相談をご検討ください。
その際には、芸能の分野に明るく、同種の事案に対応経験のある弁護士にご相談された方が良いものと考えます。
弊所では、芸能関係の案件について数多くのご依頼をいただいており、芸能関係の契約トラブルについての対応実績も多くございます。
事実関係やご希望を詳しくお聞きし、ご依頼者様に合った解決方法をご提案させていただきます。
これまでの経験をもとに、お困りの状況を打破できるよう、ご依頼者様にご助力できればと考えておりますので、是非、お気軽にご相談ください。