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エンターテイメントに関する法務や、インターネットトラブルについて、実務を交えて随時コラムを更新しております。
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インターネット問題

2024.11.29

身に覚えのない発信者情報開示請求が届いたらどう対応すべき?

インターネット上の投稿や通信によって他人の権利を侵害してしまった場合、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)という法律に基づいて、「発信者情報開示請求」を受けることがあります。

プロバイダから発信者情報開示請求の通知(意見照会書)が届いた、というご相談は、日頃から多数いただいておりますが、そのうちの99%は、開示請求されている投稿や通信について、心当たりがあるというケースです。

しかしながら、ごく稀に、「通知書に記載されている投稿や通信に、全く心当たりがない」というケースがあります。

今回の記事では、そういった身に覚えのない発信者情報開示請求が届いた場合、どのように対応すべきなのか、裁判例なども踏まえて解説いたします。

CONTENTS

執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
弁護士 蓮池 純

発信者情報開示請求や著作権侵害等のインターネット問題に係る事案を多数担当し、
YouTuberやクリエイターの方々からもご依頼をいただいております。

私自身ゲームやアニメなどのエンタメが好きで、
大手エンタメコンテンツ制作会社の法務部へ出向していた経験もありますので、
エンタメ企業を中心とした企業法務にも注力しています。

この記事を3行でまとめると・・・

ご自宅に意見照会書が届いた=ご自身の契約回線で投稿がなされた

意見照会書に対してどういった回答をするかは、ケースバイケースの判断が必要

後々の訴訟リスクなど、具体的な見通しを踏まえた対応が必要

発信者情報開示請求とは

プロバイダ責任制限法

インターネット上で誹謗中傷がなされた場合や、違法ダウンロード、著作物の無断転載などの著作権侵害がなされた場合、被害者は、加害者の身元を突き止め、法的責任を追及するため、発信者情報開示請求を行うことがあります。

これは、冒頭でも触れたとおり、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)という法律を根拠とした請求です。

「発信者情報開示に係る意見照会書」とは?

被害を主張される方が発信者情報開示請求をすると、開示請求を受けた通信会社(NTTドコモやソフトバンク等)などのプロバイダは、契約者に対し、開示請求に同意するか否かと、投稿をした理由等の意見を求め、意見照会を行います。この意見照会を行うための通知書が、「意見照会書」と呼ばれます。

被害者が発信者情報開示請求をする場合、①コンテンツプロバイダ(掲示板運営者や、SNSを運営する企業のこと)に対して発信者情報開示請求を行い、コンテンツプロバイダから入手したIPアドレス等の情報を元に、②通信会社に対して発信者情報開示請求をするという流れが通常の流れです。

この②の手続きに移行した際に、通信会社から契約者に対して意見照会書が送付されます。

通信会社は、通信の秘密を守る立場にあり、開示請求に対しては、原則として争う必要があるという建前になっています。

また、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)という法律の6条において、通信会社は、開示請求を受けた場合は、「発信者の意見を聴かなければならない」と義務付けられているため、これに対応する形で通信会社(プロバイダ)は、意見照会書を送付しています。

そのため、お手元に「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いているということは、ご自身が契約している通信回線を使用して、インターネット上の権利侵害がなされ、発信者情報開示請求を受けている、ということを意味します。

発信者情報開示に関する意見照会の一般的な解説については、こちらのコラムで詳しく解説していますので、併せてご参照ください。

なぜ身に覚えのない開示請求が届くのか?

身に覚えのない投稿や通信で意見照会書が届いた場合、このままどうなってしまうのかという不安とともに、「なぜ?」「どうして?」という疑問を強く抱かれると思います。

この疑問に対する回答としては、2つのパターンが考えられます。以下、順にご説明します。

同居のご家族や、一時的に訪問した友人などが投稿しているパターン

1つ目のパターンとしては、同居しているご家族、親族や、自宅に一時的に訪問してきた友人等が、自宅のWi-Fi回線を使用して、投稿や通信を行っているパターンです。

弊所で過去に対応したケースでも、同棲している交際相手に確認したところ、投稿に心当たりがあった事案や、未成年の子どもが書き込みをしていたことが判明した事案などがありました。

このようなケースも一定数あるため、意見照会書に記載されている投稿日時や通信日時に、自宅に誰がいたのかを思い返していただき、回線を使用した可能性のある人物に事実確認を行っていただく必要があります。

なお、具体的な投稿日時や通信日時は、意見照会書の「弊社が管理する特定電気通信設備」の欄や、「別紙投稿記事目録」「別紙発信者情報目録」などに記載されていますので、ご確認ください。

不正アクセス等により、回線が乗っ取り被害に遭っているパターン

もう1つのパターンとしては、ご自宅の回線が不正アクセス等により、乗っ取り被害に遭っているというものです。

実際にあった例としては、ご自宅のWi-Fi回線にパスワードが設定されていなかったり、設定されているパスワードがごく単純なものであったため、近隣住民が無断で回線を使用(フリーライド)していた例があります。

また、割合としてはごく少数の印象ですが、ご自宅のパソコンが、トロイの木馬などのマルウェアに感染し、第三者に乗っ取られ、侵害情報の流通の中継地点として利用されるという被害もあります(俗に「踏み台にされる」と表現します)。

実際にマルウェアを利用した不正アクセスに遭っている場合、契約しているプロバイダから注意喚起のお知らせが届くこともあるようです。

身に覚えのない開示請求に対して考えられる対応

身に覚えのない投稿や通信で意見照会書が届いた場合の対応としては、①情報開示に同意の回答をする、②情報開示に不同意の回答をする、③意見照会を無視(放置)する、という3通りの対応が考えられます。

それぞれの対応について、ご説明します。

①情報開示に同意の回答をする

情報開示に同意する、という回答をした場合、プロバイダは、請求者(被害者)に対して契約者の氏名、住所等を開示します。

なお、契約者本人ではなく、同居の家族等が投稿者だった場合、提出する回答書は「契約者と投稿者が異なる場合」と記載された回答書で提出する必要があります。

このように、情報開示に同意する、という回答をしてしまうと、基本的には契約者等の個人情報が相手方に開示されてしまうため、同意すべきかどうかは慎重に判断する必要があります。

具体的には、そもそも相手方が主張している投稿が、相手方の権利を侵害するものとはいえない場合、情報開示に同意さえしなければ、発信者情報開示請求は認められません。

そのため、情報開示に同意する、という回答をするかどうかは、権利侵害に該当するかどうかという、法的な判断が必要となります。

そのため、あらかじめ弁護士に相談されることをおすすめします。

②情報開示に不同意の回答をする

情報開示に同意しない、という回答をした場合、基本的には裁判で相手方(被害者)に対する権利の侵害が認められるかが審理され、権利侵害が認められた場合、強制的に発信者情報が開示されます。

その際、意見照会書に対する回答の内容が、権利侵害が認められるかどうかの審理において参考資料として用いられることが一般的です。

そのため、情報開示に同意しない、という回答をする場合、弁護士に相談の上、権利侵害が認められないことを専門家の立場から主張する「意見書」というものを書いてもらうことをおすすめします。

注意点としては、投稿の内容が権利侵害に当たることが明白な場合、情報開示に同意しない、という回答をしたとしても結局情報が開示されてしまうため、意味がありません。

それどころか、権利侵害に当たることを争っていた、という事情が、契約者=真の投稿者である、という疑いを強めてしまうリスクもあります。

そのため、意見照会への回答にどのような内容を記載するのかは、後々の影響も考え、慎重に判断しなければなりませんので、その意味でも専門家の意見を聴かずに対応することは避けた方が無難です。

③意見照会を無視(放置)する

身に覚えのない開示請求が届いたからといって、それを放置するという対応はあり得るのでしょうか?結論から申し上げると、絶対におすすめできません。

というのも、そもそも投稿に心当たりがないという状況で、「あなたの意見を回答してください」と言われているのに、何の意見も述べず放置していた、という事情は、契約者=真の投稿者である、という疑いを強めてしまい、後々の示談交渉や裁判等で不利になってしまいます。

少なくとも、意見照会を無視することは避け、「投稿に心当たりがない」という意見をしっかりとプロバイダに伝えるべきです。

実際に情報が開示されてしまったら、どう対応すれば良いのか

意見照会に対して同意する、という回答を出したり、同意しないという回答を出したが裁判で強制的に開示が認められてしまった場合、契約者の個人情報が開示されます。

情報が開示された後は、請求者(被害者)やその代理人から、損害賠償請求の通知が届いたり、民事訴訟を提起されたりするのが通常の流れです。

実際に請求者(被害者)やその代理人から通知が届いたら、どう対応すればいいのでしょうか?

投稿者がわかっている場合(同居の家族等)

事前の聞き取りなどで、実際の投稿者がわかっている場合は、実際の投稿者が損害賠償請求の名宛人となります。

その場合、実際の投稿者と相手方との間で、慰謝料の支払い等について、示談交渉をすることが考えられます。

投稿に全く心当たりがない場合の対応① −−−投稿者でないことの証拠を集める

まず、請求者(被害者)やその代理人から通知が届くよりも前に、事前の防衛策として講じていただきたいのが、「投稿に心当たりがなく、私が投稿者ではない」ことを客観的に立証するための証拠集めです。

プロバイダから意見照会書が届いた後すぐに取り掛かる必要があります。

具体的には、以下のような証拠を収集することが考えられます。

・投稿日時に自宅にいなかったことを証明できるもの(いわゆるアリバイ証拠

例:外出先での買い物のレシート、電車・バスの乗降履歴など

・自宅にあるパソコンなどを専門の解析業者に解析してもらい、ログを調査する(フォレンジック)

そのほかにも、裁判例等で考慮されている事情・証拠がいくつかあります。

後々の交渉や裁判で不利にならないために、どういった防衛策を講じておく必要があるのかは、プロバイダから意見照会書が届いた段階で検討する必要があります。

具体的なご事情に応じてアドバイスさせていただきますので、まずは弊所までご相談ください。

投稿に全く心当たりがない場合の対応② −−−被害者との交渉

請求者(被害者)やその代理人から通知が届いた後は、被害者と交渉を行います。

どういった方針で交渉を進めていくのかは、ケースバイケースとなりますが、中には、早期解決の観点から一定額(見舞金)の支払いをした上で、投稿に心当たりがないことに嘘偽りがない、ということを誓約し、合意書を締結することもあります。

投稿に心当たりがないのに責任を負わなければならないのか?」という疑問もあるかと存じますが、裁判例では、「本件契約者は,単に身に覚えがないと回答しているにすぎないことからすれば,被告によって特定された携帯電話端末を利用している本件契約者が本件発信者であると推認される」(大阪地方裁判所平成18年6月23日判決)などと判断したものがあり、同趣旨の裁判例も多数出てしまっているところです。

そのため、もし訴訟に発展した場合、基本的には契約者=真の投稿者であるとの推認が働きますので、こちらとしては推認を覆す事情を具体的に主張・立証しなければなりません。

当然、応訴する場合は弁護士費用等のコストがかかりますし、反証に失敗し、敗訴(投稿者であると認定)してしまうリスクもあります。

そのような諸々のリスクやコストを考慮して、早期解決の観点から示談を締結することが望ましい場合もあるのです。

身に覚えのない発信者情報開示請求が届いた場合、まずはご相談ください

以上、身に覚えのない発信者情報開示請求が届いた場合の対応についての解説でした。

ここまでお読みいただいてわかるとおり、意見照会書の対応方針や、示談や訴訟を見据えた対策など、様々な観点から慎重に検討すべき事案となりますので、弁護士に相談せずにご自身だけで対応されることは得策ではないと思います。

当事務所では、これまでの対応経験を踏まえて、ベストな解決方針をご提案できるよう努めておりますので、お気軽にご相談ください。

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