エンタメ・知財法務
2025.09.22
ゲーム開発と権利関係〜ゲーム開発において注意したい著作権、肖像権、パブリシティ権等の権利処理〜

ゲームというのは、様々な著作物の集合体です。シナリオ、イラスト、デザイン、UI、楽曲、ソースコードなど、様々な著作物を組み込んで制作されます。
また、上記の他にも、背景に実在する都市や著名な建物を採用したり、声優さんの声音を収録したり、実際の俳優さんをモーションキャプチャで撮影して、ゲームのキャラクターに投写するなど、どういった権利処理をすべきか、検討が必要な事項も様々です。
今回は、最低限理解しておくべき著作権や肖像権の問題、並びに背景に関する注意点について解説し、一般的な権利処理の方法について解説します。
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執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐
大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。
各種制作物と著作権の問題
制作物に関する著作権〜イラスト、ソースコード〜音楽の権利〜
ゲームは、シナリオ、キャラクターや背景のイラスト、ソースコード、BGM(楽曲)や効果音といった音楽など、様々な制作物を組み合わせて制作されます。
これらは全て、著作権法で保護されるものです。
著作権という権利は、著作物が創作された際に発生するもので、自動的に権利が発生します。これを発生主義といい、特許権や商標権など登録が必要なものと区別されます。
著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義されており(著作権法2条1項1号)、人が何か思想や感情や考えをもって、それに基づいて創作的な表現行為をすればそれは基本的に著作物に該当し、著作権が自動的に発生することになります。
したがって、誰が作っても同じような簡単な制作物を除いて、人が創作したイラスト、ソースコード、音楽などは、著作物に該当し、原則として創作者に著作権が発生します。
そのため、他の人が制作した著作物を、勝手に使用した場合、著作権侵害となります。
ゲームを制作する際には、他人が制作した著作物を無断で使用すると、著作権法違反という犯罪が成立したり、損害賠償責任が発生したり、ゲームの販売を差し止められるなどの法的責任を追及される可能性があります。
制作物に関するよくあるトラブル
よくあるトラブルとしては、下請けのクリエイターがネット上で拾ったコンテンツをゲームに使用したり、トレースに近いような形で制作したイラストを使用してしまったといったトラブルです。
筆者も実際にこのような相談を複数受けたことがあります。
ゲーム運営者側にそのつもりがなくても、納品された制作物が他人の著作権を侵害していた場合は、開発者・運営者が著作権を侵害していることになるため、下請との間で適切な契約書を締結し、下請業者の管理等を徹底する必要があります。
また、ゲーム制作にあたって、フリーソフトウェアを使用して成果物を制作したり、オープンライセンスのソースコードをゲームに組み込む場合があります。
ここで気をつけたいのは、これらソフトウェアやソースコードに関する規約をよく読むと、「商用利用禁止」と記載されていることがあります。
このような、商用利用禁止のソフトウェアやソースコードを使用したゲームを販売することは著作権侵害となってしまうため、注意が必要です。
きちんと、ゲーム開発に使用するソフトウェア等の規約を確認することが重要ですが、海外のものも多く、英文の規約が難解であることも珍しくありません。
出所の不明なソフトウェアやソースコードの使用は慎重に検討する必要があります。
著名な建造物を利用した背景と権利関係
はじめに
都市や著名な観光スポット、建造物などをイラスト化あるいは3DCG化して背景に採用する例はよく見られます。
例えば、富士山などの自然物から、東京タワーやスカイツリー、渋谷のスクランブル交差点など、様々です。
富士山などの自然物については、誰のものでもありませんので、自由に使用することができます。
他方で、建造物等は、製作者がおり、運営者や管理者も存在しますので、権利処理を検討する必要が生じます。
建造物と著作権の問題
建造物は、必ずしも著作権で保護されるとは限りません。例えば家を建てるとなると、ある程度構成要素が決まっており、入り口玄関、階段、窓など必須の項目が多く、実用性の観点からデザインされるため、全て著作物だなどと整理してしまうと、家が作れなくなってしまいます。
そこで、一般的な建造物については、創作性がないとして、著作物ではないと考えられています。
もっとも、美的創作性の認められる建築物については、創作性が認められると考えられています。
そのため、都市の写真をイラスト化して背景に採用するような場合には、創作性のある建造物が含まれていないか確認し、含まれているようであれば、権利処理を行った方が安全といえます。
例えば、東京タワー、スカイツリーなど、観光客もたくさん来るような鑑賞の対象となる建造物を使用する場合は、管理者に連絡をするのが安全です。
風景や街並みを背景に利用する場合の注意点
自然物や一般的な建物は著作物ではないと言いましたが、写真は著作物として扱われます。
したがって、風景や街並みを背景に利用する際に、ネットで拾ってきた写真をトレースしてゲームに落とし込むといったことをしてしまうと、その写真を複製していることになってしまい、写真撮影者の著作権を侵害するリスクがあります。
ここは見落としがちな点であり、筆者も実際このようなトラブルの事案を取り扱ったことがあります。
風景や街並みを背景に利用する場合は、自分で写真を撮影するか、商用利用可能な写真を利用するか、写真をベースにして自分なりに一からデザインをするなど、写真の著作権を侵害しないよう注意が必要です。
都市を背景に利用する場合の注意点
渋谷のスクランブル交差点や、著名な都市のスポットを背景に利用するような場合、上記の通り、創作性の高い建造物の有無を確認する必要があります。
その他、看板などには企業や商品のロゴが掲載されていたり、建物に会社やビルの名称が掲載されている場合があります。
こういったものをそのまま掲載すると、商標権や著作権を侵害するリスクが生じますので、看板や名称等は、架空のものに置き換えるといった対応が必要となります。
芸能人や俳優・声優を起用する場合の権利関係
著作隣接権に関する権利関係
著作隣接権とは、著作物の創作者ではないものの、著作物の伝達に重要な役割を果たしている実演家、放送事業者、レコード製作者等に認められる特別な権利であり、著作権ではないものの、著作権法の89条以下に権利が規定されています。
最近のゲームでは、声優さんの声を搭載するものや、モーションキャプチャを使用して実際に役者さんが動いた様子を特殊なカメラで撮影・データ化し、ゲームに搭載するといったものも存在します。
「動き」や「声」自体、著作権が発生することはありませんが、声優さんや俳優さんには、「実演家の権利」という著作隣接権が存在します。
具体的には、氏名表示権(90条の2)、同一性保持権(同の3)、録音権及び録画権(91条)、放送権及び有線放送権(92条)、送信可能化権(インターネット上で送信できる状態にする権利92条の2)などであり、要するに、実演家である声優さんや俳優さんの実演している様子を、彼らに無断で使用することはできないということです。
したがって、こういった権利の客体となるデータを、ゲームに搭載する場合は、きちんと権利処理を行う必要があります。多くの場合は、声優さんや俳優さんが所属している事務所との間で契約を締結することとなります。
肖像権とパブリシティ権
(1)肖像権
人は、誰でも、「肖像権」という権利を有しています。
肖像権とは、自分の顔や姿態をみだりに撮影されたり、公表されたりしない権利のことをいいます。
したがって、人の肖像をゲームに搭載する際は、著作隣接権が発生しないような場合(単に人の顔をキャラクターに投影させるだけのような場合)であっても、肖像権の権利処理が必要となります。
(2)パブリシティ権
パブリシティ権とは、俳優や芸能人などの著名人の肖像や氏名がもつ顧客誘引力から生じる経済的な利益・価値を、排他的に利用する権利のことをいいます。
例えば、ゲームのメインキャラクターの名前を「木村拓哉」とした上で、木村拓哉さんに寄せた顔や服装、設定などを盛り込めば、ファンの人はそのゲームに興味を持つでしょうから、そういった顧客誘引力に権利が認められています。
したがって、肖像権とは別に、パブリシティ権の権利処理も必要となります。
一般的な権利処理の方法
著作権譲渡のケース
エンタメ業界においては、成果物の著作権や特許を申請する権利等一切の知的財産権を発注者に帰属させるといった権利処理をするのが一般的です。
ゲーム、アニメ、映画など、エンタメコンテンツには様々な権利が混在しているため、コンテンツを展開する上で、一部の知的財産権のみ運営とは別の企業や人に権利が帰属しているとなると、使い勝手が悪いためです。
例えば、ゲームの構成物であるシナリオ、イラスト、ソースコードなどを外部に外注する場合、全ての権利を買い取らないと、ゲームを改変する際や二次利用をする場合に不都合が生じます。
著作権一切を譲渡する場合は、契約書上注意する必要があるため、以下解説します。
1. 著作権の譲渡と、著作権法61条2項の注意点
ここで、注意したいのは主に2点です。
一つ目は、日本の著作権法は変わった作りになっており、著作権法27条と28条に定める権利については、これを譲渡することを明示的に記載しないと譲渡できないという点です。
著作権法27条は翻案権等を定めた規定であり、28条は二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を定めたものであり、どちらも制作物を改変し、二次的な著作物を制作する際に必須の項目となるため、必ず譲渡を受けておく必要があります。
しかしながら、著作権法61条2項は、これらの権利は、特掲しないと譲渡されない記載されています。
(著作権の譲渡)
第六十一条 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2 著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。
つまり、契約書に「著作権一切を譲渡する」と記載しただけでは足りず、「著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む)」と記載しなければなりません。よくある条文例のダメな例と良い例は以下のとおりです。
(2)著作者人格権の不行使
二つ目は、著作者人格権を行使させないよう約束をさせるということです。
著作者人格権というのは、著作権の財産的な側面ではなく、著作者の作品に対する思いを保護するもので、同一性保持権(勝手に改変されない権利)、氏名表示権(著作者であることを表示しまたは表示しない権利)などがあります。
著作権は全て譲渡してもらったのに、著作者人格権の不行使を約束してもらっていない場合、同一性保持権が存在するため、制作物を現状のまま使用しなければならず、デザインや色、サイズの調整等をした場合に、同一性保持権侵害となってしまう可能性があります。
そのため、著作者に対して、著作者人格権を行使しないことを約束してもらう必要があります。
ライセンスの場合
著名なクリエイターに発注をする場合や、既存の著名IPを使用する場合、知的財産権の全部譲渡を受けるのは難しいでしょう。
この場合は、権利の使用許諾を受ける必要があり、使用許諾契約(ライセンス契約)というものを締結します。
ライセンス契約では、独占的な許諾なのか、非独占的な許諾なのか、ライセンス期間をどうするのか、使用許諾範囲をどうするのか、使用許諾料をいくらにするのか等、様々な事項を取り決めることとなります。
諸条件はどういった成果物・I Pをどういったコンテンツに使用するかによってケース・バイ・ケースです。
例えば、ディズニーのIPを使用したゲームを制作するような場合は、非独占の長期ライセンス契約を締結し、ライセンス料は売上のx %といった契約が想定されます。
他方で、著名クリエイターに新しいキャラクターを制作してもらうような場合は、無期限の独占的ライセンス契約を締結し、無断での二次利用禁止、氏名表示権不行使条項は設けないといった条件がよく見られます。
肖像権やパブリシティ権の場合
肖像権は、人の人格的な権利であるため、第三者に譲渡することができません。また、パブリシティ権も顧客誘引力に対する排他的な権利であるため、これを譲り受けるというのはできないでしょう。
このように、権利の性質上譲渡ができない権利については、使用許諾契約を締結することとなります。
したがって、上記のライセンス契約と同様、ライセンス期間をどうするのか、使用許諾範囲をどうするのか、使用許諾料をいくらにするのか等、様々な事項を取り決めることとなります。
芸能人や声優の方の肖像、声、実演等を利用する場合は、基本的に所属事務所等と契約を締結することがほとんどですが、最近はインフルエンサーやYouTuber等、事務所に所属していない方をコンテンツに採用するケースも多いので、その場合は個人と契約をすることになるでしょう。
まとめ
ゲームを制作する上では、様々な権利の処理が必要となります。ゲームを作ってリリースした後に、権利侵害が発覚したといった場合は、取り返しのつかないこととなりかねません。
完成したゲームを自由に改変したり、譲渡したり、海外展開したりできるよう、適切な権利処理を行い、コンテンツを自由に展開できる状態にしておくことが重要です。
弊所では、ゲーム開発・運営に関する法務を多数取り扱っており、筆者を含めゲーム会社に所属していた弁護士が複数在籍しておりますので、ゲーム開発でお困りごとが生じた際は、お気軽にお問い合わせください。













