エンタメ・知財法務
2024.05.22
アプリやゲーム等で高額賞金・賞品キャンペーンを実施したい 〜景品表示法上の景品規制の考え方 オープン懸賞とは〜
近年、アプリゲームを中心に、高額な賞金・賞品キャンペーンを実施する例が散見されます。
漫画アプリ、動画配信アプリ等でも実例が見られるようです。
例えば
・抽選で1名に1000万円があたるキャンペーン
・抽選で総額6億円があたるキャンペーン
など、インパクトの強いものも存在します。
ユーザーからすればありがたいキャンペーンですし、企業からしても広告効果によるユーザーの増加等が期待でき、win-winなキャンペーンといえるでしょう。
今回は、この種のキャンペーンを実施する上で、必須となる、不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」といいます)のポイントについて解説します。
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執筆者プロフィール
弁護士法人LEON
代表弁護士 田中 圭祐
大手エンタメコンテンツ会社の法務部に所属していた経験から、
企業法務、知的財産法務、渉外法務の分野を中心に活動しております。
事務所としては、これらの分野に加え、インターネット問題の解決に積極的に取り組んでおります。
景表法とは
景表法
景表法とは、「不当景品類及び不当表示防止法」のことで、簡単にいうと、消費者に不利益が生じないように、「景品」に上限を設けたり(景品規制)、消費者を誤認させるような表示を禁止する(表示規制)ための法律です。
今回は、主に景品規制について解説します。
景品規制とは
例えば、100円の商品を買ったら、抽選で100万円が当たるクジを販売した場合、消費者の射幸心を必要以上に煽ってしまいます。
そのため、消費者は、100万円のために、必要のない100円の商品を大量に購入し、結局100万円は当たらずに、損をするといった被害が生じる可能性があります。このような商品の販売は、賭博行為に他なりません。
そこで、景表法は、景品規制を設けて、景品の金額に上限をつけています。
景品類とは
景品規制にいう、「景品類」とは、顧客を誘引する手段として、取引に付随して提供する物品や金銭などの経済上の利益をいうと定義されています。
経済上の利益というのは非常に広い意味で、定義告示によれば、金銭、金券、物品、役務(サービス)等のおよそ一切のものを含むと考えられます。
※なお、「正常な商慣習に照らして値引又はアフターサービスと認められる経済上の利益及び正常な商慣習に照らして当該取引に係る商品又は役務に附属すると認められる経済上の利益」は除外されています。
懸賞と総付景品の規制
懸賞
景品類を付与する場合の規制は、大きく2種類に分けられ、
「懸賞による景品の付与」と、「総付景品(そうづけけいひん)」のいずれかに分類されます。
懸賞とは、「①くじその他偶然性を利用して定める方法」又は「②特定の行為の優劣又は正誤によって定める方法」によって、景品類の価額を定めることをいいます。
例えば、「抽選で1万名様に1万円プレゼント」、「じゃんけんで勝ったら●●をプレゼント」、「クイズに正解したら●●をプレゼント」などです。
この場合、取引の価額(商品やサービスの金額)に応じて、景品類の価額が制限されます。
具体的には以下の表の通りです(共同懸賞等の特殊なケースは割愛)。
例えば、2,000円の商品を購入した消費者に付与できる最高額は4万円までとなります。
また、総額規制が存在し(これがないと、100名中99人に当たるなどの法律の潜脱ができてしまいます)、景品類の総額が、キャンペーンによって想定される売上の2%までとなります。
したがって、一つの景品を4万円と設定した場合であって、想定売上が1億円の場合、景品の総額は200万円までとなりますので、当選者を50名以下に設定しなければなりません。
総付景品
総付景品とは、懸賞によらないで提供する景品のことです。
簡単にいうと、「条件を満たせば絶対にもらえるもの」です。
具体的には、以下のような場合です。
①商品の購入者にもれなく提供する
②店舗への入店者にもれなく提供する
③購入や入店の先着順によって提供する
例えば「購入したお客様全員に●●をプレゼント」、「来店者全員に●●をプレゼント」、「先着1000名様に●●をプレゼント」などのケースです。
この場合も、取引の価額に応じて、景品類の価額が制限されます。
具体的には以下の表の通りです。
総付景品については、来店者全員にプレゼントの場合、取引価額が不明という問題が生じますが、この場合は、原則100円として扱われるため、上限は200円となります。(もっとも、一人ワンドリンク制の飲食店などの場合は、最低のドリンク料金を取引価額とみなすことができるなど、例外はあります。)
したがって、懸賞よりもかなり景品が制限されることとなります。
高額賞金・賞品キャンペーン
高額賞金・賞品キャンペーンの実施と景表法の問題
さて、上記を見れば分かる通り、景表法の景品規制の適用を受ける場合、およそ高額賞金キャンペーンは実施できないのではないかという問題が生じます。
たしかに、景品規制の適用があれば、一人に対して1000万円を付与するなどのキャンペーンはどうやっても不可能となります。
そこで、この賞金や商品は景品ではないという整理をすることが必要となります。
オープン懸賞
上記を解決するために、オープン懸賞という概念が登場します。
オープン懸賞とは、取引と付随せずに、誰でも参加できる懸賞であり、景表法上の懸賞とは別の概念であると整理されます。
景品とは、「顧客を誘引する手段として、取引に付随して提供する物品や金銭などの経済上の利益」であるところ、オープン懸賞で提供する賞金や賞品は、この「取引に付随して」という要件に該当しないため、景表法上の「景品」にあたらず、景表法の規制が回避できるのです。
例えば、以下のようなものです。
・Twitterのフォロー&リツイートで、100名に抽選で10万円プレゼント
・アンケートに回答した人の中から、100名に抽選で自転車プレゼント
取引に付随して
オープン懸賞を実施するためには、取引付随性について理解する必要があります。
「取引に付随して」とは、以下の場合を意味します。
①取引を条件とする
②取引を条件としなくとも、顧客の購入の意思決定に直接結びつく可能性のある形で行われる
①「取引を条件とする」場合は、商品の購入を条件とする場合です。
この場合に、取引付随性があるのは明白です。
②「顧客の購入の意思決定に直接結びつく可能性のある」場合は、例えば、「商品の容器包装にキャンペーン内容を記載する場合」や、「雑誌で出題したクイズの回答者を対象とする場合」などです。
いずれも、キャンペーンやクイズに参加するために、商品の購入をする可能性があり、この場合も取引付随性が認められます。
また、実店舗への来店者を対象とする場合も、同様に、商品の購入に結びつく可能性があるため、取引付随性が認められます。
もっとも、ここがミソで、ウェブサイトやアプリ等、実店舗ではないサイト・アプリへアクセスすることは、商品の購入に結びつく可能性がないと解釈されています。
これは、実店舗であれば、来店して景品をもらいながら、商品を買わないという店員に対する後ろめたさや、店員の積極的なセールストークなどによって、商品の購入に結びつきやすいと考えられる一方で、ウェブサイトやアプリであればそのようなリスクはないという価値判断に基づきます。
公正取引委員会の公開している「インターネット上で行われる懸賞企画の取り扱いについて」(平成13年4月26日)では、以下のように説明されています。
したがって、実店舗の来店者を対象とする場合は景品規制がかかるが、インターネット(ウェブサイトやアプリ)の場合は、原則として景品規制を回避できるという結論となります。
高額賞金・賞品キャンペーンの実施
高額賞金・賞品キャンペーンは、オープン懸賞という整理をして実施することとなります。
但し、あくまで、取引を条件としない場合に限り、オープン懸賞という整理が可能であるため、サブスク型のサービスにおいては、オープン懸賞が実施できない点に注意が必要です。
最近のアプリサービスは、無料で利用できることを原則として、課金制を導入しているサービスが多く存在します。
この場合に、取引付随性が否定できるのか、若干の議論の余地はあると思いますが、基本的には、誰でも無料でインストールができて、無料で遊べて、その中でキャンペーンに参加できるのであれば、オープン懸賞と整理して問題ないと考えます。
この考えに基づいて、実務上、高額な賞金・賞品キャンペーンが実施されているのです。
動画配信サービスなどは、サブスク型のサービスが多いですが、無料で見られる動画を提供しつつ、アーカイブを見るためにはサブスクに登録しなければならないといったサービスも存在し、そういったサービスにおいても、オープン懸賞の実施が可能と考えます。
そのため、サブスク型のサービスにおいて、オープン懸賞を実施したい場合は、「無料会員」という概念を作って、一部のコンテンツを無料で提供するなどの工夫をすれば、高額な賞金・賞品キャンペーンの実施ができる可能性があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、最近よく目にする、高額な賞金・賞品キャンペーンと景表法の問題を解説いたしました。
もっとも、あくまで、一般論となりますので、個別具体的な対応や検討が必要となる場合があります。
実際に、これからキャンペーンを検討されている方は、弁護士等の専門家への相談を強くお勧めいたします。
弊所では、数多くのゲーム会社、ウェブサービス運営会社様からご依頼をいただいており、様々なキャンペーンに関する法令調査や、助言等を行ってまいりました。
問題のキャンペーンについて、「これは違法となります」といった回答だけではなく、「こういう仕様にすれば実現できそうだ」「こちらの方が売上にも貢献できるのではないか」など、これまでの経験を踏まえ、個別の案件に応じた、対案の提示や、具体的なアドバイスを提供できるよう心がけております。
キャンペーンの実施については、景表法以外にも、ケアすべき法律がございますので、お気軽にご相談いただけますと幸いです。