インターネット問題
2026.07.27
勝手に切り抜き動画を作成されたらどうする?

YouTubeやニコニコ動画、Twitchといったプラットフォームで活動する配信者やVTuberにとって、ファンが作成する「切り抜き動画」は、自身の魅力を広く伝えるための強力な宣伝ツールとなる側面があります。
しかし、その一方で、配信者の意図を無視した悪意のある編集や、収益のみを目的とした無断の転載が行われるケースも後を絶ちません。
今回は、切り抜き動画の違法性の判断基準や、勝手に公開された際の具体的な対応の手順について考えていきたいと思います。
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監修者プロフィール

弁護士法人LEON
弁護士 蓮池 純
発信者情報開示請求や著作権侵害等のインターネット問題に係る事案を多数担当し、
YouTuberやクリエイターの方々からもご依頼をいただいております。
私自身ゲームやアニメなどのエンタメが好きで、
大手エンタメコンテンツ制作会社の法務部へ出向していた経験もありますので、
エンタメ企業を中心とした企業法務にも注力しています。
切り抜き動画の違法性は?
切り抜き動画とは、元の長い配信動画から特定の場面を抽出し、字幕や効果音を加えて再構成したものを指します。
この行為が法的に許容されるかどうかは、著作権法を中心とした多角的な視点からの検討が必要となります。
配信者自身がガイドラインを設け、一定の範囲内での作成を許可している場合を除き、原則として無断での作成・公開は違法となる可能性が高いです。
具体的には、動画配信者やVTuberなどの以下のような権利を侵害している可能性があります。
著作権侵害にあたる可能性がある
映像や音楽、イラストなどの著作物は、著作権法によって保護されており、著作者は自身の作品に対して独占的な権利を有しています。
配信者が作成した動画は、その構成や表現において思想または感情を創作的に表現したものであり著作物です。
したがって、権利者の許諾なく、他人が作成した動画を利用して切り抜き動画を作成・公開する行為は、原則として著作権侵害となります。
この侵害は、行為が有償であるか無償であるかにかかわらず成立する点に注意が必要です。
また、動画内でのトーク内容や独自の手法についても、創作性が認められる場合には保護の対象となりえます。
複製権・公衆送信権の侵害にあたる可能性がある
切り抜き動画の作成工程においては、具体的に2つの権利侵害が成立する可能性があります。
1つ目は、複製権(著作権法第21条)の侵害です。
複製とは、有形的再製と定義されます。
平たく言えば著作物を特定の媒体に固定化することを意味しますが、切り抜き動画の元となる動画(著作物)を、自身のパソコンやスマートフォンに保存、あるいはキャプチャーする行為は、有形的再製に該当し、複製権の侵害にあたります。
権利者に無断でデータを取り込むこと自体が、この段階で法的な瑕疵を抱えることになります。
2つ目は、公衆送信権(送信可能化権)の侵害です。
作成した切り抜き動画をYouTubeなどの動画共有サイトにアップロードし、不特定多数の人が閲覧できる状態にする行為は、著作権法第23条に規定される公衆送信(送信可能化)にあたります。
インターネット上に公開する権限は著作者が独占しているため、他者が勝手に配信を行うことはできません。
たとえば、10時間に及ぶ生配信のうち、数分間だけを切り取ってアップロードした場合であっても、元の著作物の一部を利用していることに変わりはなく、公衆送信権侵害に該当します。
著作者人格権の侵害に当たる可能性がある
著作権という財産的な権利とは別に、著作者には著作者人格権という、自身の作品に対する思い入れや名誉を守るための権利が認められています。
切り抜き動画の編集方法によっては、この人格権、特に同一性保持権の侵害を主張できる可能性があります。
同一性保持権とは、自分の意図に反して著作物の内容を勝手に変えられない権利です。
たとえば、配信者の発言を前後で入れ替え、本来の意図とは全く逆の主張をしているかのように見せる悪意のある編集や、特定の誰かを誹謗中傷しているかのように仕立て上げる行為がこれに該当します。
また、不適切なテロップや効果音を加え、配信者のイメージを著しく損なうような改変も、同一性保持権の侵害とみなされます。
このような編集は、配信者が長年築き上げてきたブランド価値や人格を直接的に攻撃するものであり、財産権の侵害以上に深刻なダメージを与える可能性があります。
切り抜き動画で拡散された情報の真偽に関わらず、動画配信者やVTuberの今後の活動を揺るがしかねない事態へ発展することも想定されるので、早期に対処すべきといえます。
プライバシー権の侵害にあたる可能性がある
配信者が実写で活動している場合や、VTuberであっても配信中に不意に個人情報が漏れてしまった場面を切り抜かれた場合、プライバシー権の侵害が問題となります。
個人の私生活上の事実や、公開されたくない情報は、法的に保護される利益です。
住所を特定できる景色の映り込みや、本名を口にしてしまった瞬間、あるいは交友関係を推測させるような会話の一部を執拗に拡散する行為は、個人の生活を脅かす侵害行為です。
特にVTuberの場合、キャラクターとしての活動を維持するために、「魂」と呼ばれる演者の情報を秘匿していることが少なくありません。
そのため、VTuberの演者が望まない情報を拡散する動画もプライバシー権や人格権の侵害に該当し得ます。
一度拡散された個人情報は、デジタルタトゥーとして消し去ることが困難な不利益を招きます。
安全な活動環境を維持するためには、プライバシーの侵害を助長する動画に対して、配信者やVTuber自身はもちろんのこと、所属事務所も対策を求められることになります。
配信者やVTuberが切り抜き動画を拡散されるリスク
無断で切り抜き動画が作成され、それが拡散されることには、単なる権利侵害以上の実務的なリスクが伴います。
1つ目は、誤解の拡散による炎上リスクです。
切り抜き動画は、一部の過激な発言や失言だけが強調される傾向があります。
前後の文脈がカットされることで、配信者が全く意図していない文脈で言葉が1人歩きし、SNS等で激しいバッシングを受ける要因となります。
この誤解を解くためには多大な時間と労力が必要となり、活動の停滞を招く経緯を辿ります。
2つ目は、公式動画の視聴機会の損失です。
多くの視聴者が切り抜き動画だけで満足してしまい、元の動画を視聴しなくなることで、配信者の収益が直接的に減少します。
また、検索結果を切り抜き動画が占拠してしまうことで、新規の視聴者が公式チャンネルに辿り着きにくくなるという弊害も生じます。
3つ目は、不適切な広告との関連付けです。
切り抜き動画の投稿者が自身の収益化のために、配信者のイメージにそぐわないジャンルの広告を掲載したり、怪しげなサービスへの誘導を行ったりする場合、配信者自身の信用が疑われることになります。
これらのリスクを放置することは、自身の活動寿命を縮める行為に他なりません。
勝手に切り抜き動画を作成・公開された場合の対応
不適切な切り抜き動画を発見した際、以下のような手順で対応する必要があります。
動画サイトの管理者に削除請求を行う
勝手に切り抜き動画を作成された場合、まず行うべきこととして、動画が投稿されているYouTubeなどのプラットフォームの運営に対して削除を求めることです。
多くのサイトでは、著作権侵害を報告するための専用フォームが用意されています。
侵害報告を行う際は、自身のどの動画(URL)のどの部分が、相手の動画のどの箇所で使われているのかを具体的に特定して提示する作業が必要となります。
運営側が侵害の事実を認めれば、数日から数週間程度で動画は非公開または削除されます。
また、人格権やプライバシー権の侵害を理由とする場合には、情報流通プラットフォーム対処法に基づき、サイト管理者に対して動画の削除を求める「送信防止措置請求」を行うことができます。
特に、嫌がらせや復讐が目的で切り抜き動画が作成されていると認められる場合や、事実でない内容で社会的評価を著しく低下させている場合には、この手続きによる削除が認められやすい傾向にあります。
発信者の特定を行う
動画プラットフォームの運営者が動画を削除したとしても、投稿者が誰であるかが分からなければ、再発を防ぐことは困難です。
悪質な投稿者に対して法的責任を追及するためには、発信者情報開示請求を行う必要があります。
これは、サイト運営者に対して投稿者のIPアドレスなどの開示を求め、さらにその情報を基にプロバイダを特定し、最終的に契約者の氏名、住所、電話番号などの情報を取得する手続きです。
2022年に施行された改正プロバイダ制限責任法(現:情報流通プラットフォーム対処法)により、これらの裁判手続きを一括して行える制度が新設されたため、以前に比べるとスムーズな特定が可能になりました。
ただし、プロバイダ側でのアクセスログの保存期間には限りがあり、3か月から6か月程度で消去されてしまうことが一般的で、現在の制度の下であっても、投稿から時間が経ってからの申立てではアクセスログの保存期間に間に合わない可能性が高いのが実情です。
被害に気づいたら、証拠が消える前の早い時期に着手することが重要となります。
発信者に対し損害賠償請求を行う
発信者の身元が判明した後は、直接的な法的な責任追及へと移行します。
まず、弁護士を介して「配達証明付きの内容証明郵便」を相手方に送付します。
書面の中で、侵害行為の事実を指摘し、今後の投稿を一切行わないという誓約書の提出、公式な謝罪、および被った損害に対する賠償金の支払いを求めます。
法的な専門家からの通知は、相手方に対して「逃げられない」という強い心理的圧力を与え、任意の解決を促すきっかけとなります。
損害賠償の額については、不当に得られた収益の返還や、精神的苦痛に対する慰謝料、および調査に要した弁護士費用の一部などが含まれます。
相手方が誠実な対応を見せない場合には、損害賠償請求訴訟を提起し、裁判で争うことも検討してください。
また、内容が悪質であれば、著作権侵害罪、名誉毀損罪といった刑事罰を求める被害届の提出や刑事告訴も視野に入れるべきでしょう。
切り抜き動画への対処は初動が重要
ネット上のトラブルにおいて、もっとも大切なのは対応の速さです。
情報の拡散は数時間単位で進行するため、後回しにすることは被害を無制限に広げることを意味します。
ご自身の切り抜き動画を発見した場合には、まず証拠を保存することを考えてください。
実際に保存すべき情報としては、投稿されている動画のURL、投稿者のユーザー名やID、投稿日時、および内容のスクリーンショットなどが考えられます。
特に、動画のURLと投稿日時(時分秒まで)の保存が最も重要です。
また、動画そのものを録画ソフトで保存しておくことも、改変の内容を立証するための有効な資料となりえます。
切り抜き動画がすでに拡散されている場合には、公式声明することを検討してください。
誤解を招く切り抜きが拡散している場合、自身の公式SNSなどで「この動画は本人の意図とは異なる内容である」旨を簡潔に発信し、二次拡散を抑制する対応が必要な場合があります。
ただし、反応することでかえって注目を集めてしまうリスクもあるため、所属している事務所がある場合には、対応方針を相談しながら対応を進めるとよいでしょう。
公式声明の有無と並行して、ネットトラブルに強い弁護士への依頼を考えるべきです。
ネットトラブルは拡散防止や炎上のリスクヘッジ、運営会社や加害者への対応と、多岐にわたる手続きをできるだけ早く進めなければなりません。
動画配信者やVTuberの方が独力で進めようとしても、手続きが複雑でなかなか対応できない可能性が高いです。
悪意のある切り抜き動画などの証拠が確保できた段階で弁護士に相談・依頼することで、受ける不利益を最小限に留められる可能性が高くなります。
まとめ
今回は、勝手に切り抜き動画を作成された際の違法性の定義や拡散されるリスク、および具体的な対応手順について解説しました。
配信活動は、クリエイターにとって金銭的価値だけにとどまらない大切な財産です。
悪質な切り抜き動画で悩まされている方や、切り抜き動画の対策についてお困りの方は、ぜひネットトラブルに強い弁護士に相談してください。













