インターネット問題
2026.08.27
X(旧Twitter)でなりすましアカウントを作られてしまった場合の対応〜削除・投稿者の特定・慰謝料請求の流れ〜

X(旧Twitter)は、日本国内だけでも数千万人が利用している巨大なSNSであり、誹謗中傷のご相談が最も多い媒体の一つです。
その中でも、近年特に増えているのが、「自分の実名や顔写真を無断で使ったアカウントを作られ、自分が言ってもいないことを投稿されている」という、いわゆる「なりすまし」の被害です。
なりすましアカウントから性的な内容の投稿や、事実と異なる投稿がなされると、ご本人の社会的な評価や人間関係に深刻な影響が生じかねません。
今回は、Xでなりすましアカウントを作られてしまった場合に、どのような法的対応が考えられるのか、投稿の削除、投稿者の特定、特定後の慰謝料請求の流れについて、弊所で実際に取り扱った事例も交えて解説いたします。
CONTENTS
執筆者プロフィール

弁護士法人LEON
弁護士 蓮池 純
発信者情報開示請求や著作権侵害等のインターネット問題に係る事案を多数担当し、
YouTuberやクリエイターの方々からもご依頼をいただいております。
私自身ゲームやアニメなどのエンタメが好きで、
大手エンタメコンテンツ制作会社の法務部へ出向していた経験もありますので、
エンタメ企業を中心とした企業法務にも注力しています。
この記事を3行でまとめると・・・
・Xのなりすましは、名誉毀損だけでなく、氏名権・肖像権・プライバシー権などの侵害として法的責任を追及できる
・Xへの通報だけでは消えないことも多く、削除は「削除仮処分」、投稿者の特定は「発信者情報開示命令」という別々の裁判手続で進める
・通信会社のログの保存期間との関係で、なりすましアカウントを見つけてから3か月以内を目安に、スピード感をもって着手することが肝心
Xのなりすましは、法律上どのような問題になるのか
名誉毀損が成立する場合
なりすましアカウントから、「私は不倫をしています」「会社の金を横領しました」といった、ご本人の社会的評価を低下させる内容の投稿がなされた場合、名誉毀損(名誉権の侵害)が成立します。
なりすましの事案では、投稿を読んだ一般の閲覧者が「ご本人が自ら投稿している」と受け取ってしまう点が特徴です。
ご本人が性的なパートナーを募集しているかのような投稿や、差別的・反社会的な発言を投稿されるケースでは、「そのような投稿をする人物である」という事実が摘示されたものとして、名誉毀損が成立すると考えられます。
名誉感情の侵害(侮辱)として争う場合
具体的な事実の摘示を伴わない、単なる悪口や嘲笑であっても、社会通念上許される限度を超える場合には、名誉感情の侵害(侮辱)として違法と評価されます。
なりすましアカウントのプロフィール欄や投稿の中に、ご本人を貶める表現が含まれている場合には、名誉毀損と併せて、名誉感情の侵害も主張していくことになります。
氏名権・肖像権・プライバシー権という切り口
なりすましの事案でよくご質問をいただくのが、「悪口は書かれていないが、勝手に自分の名前と顔写真を使われている。この場合は何も請求できないのか」というものです。
結論から申し上げると、投稿の内容が悪口でなかったとしても、ご本人の氏名を無断で使用することは氏名権の侵害、ご本人の顔写真を無断で掲載することは肖像権の侵害に当たり得ます。
また、住所や勤務先、交友関係など、ご本人が公開していない情報を投稿されている場合には、プライバシー権の侵害も問題となります。
なお、なりすまし行為そのものを「アイデンティティ権」の侵害として捉える考え方もあり、なりすましにより他者から見た人格の同一性が偽られた場合に人格権侵害を認めた裁判例も存在します。
もっとも、これを独立した権利として正面から認めた裁判例はまだ限られているため、弊所では、氏名権・肖像権・名誉権・プライバシー権といった確立した権利の侵害を中心に主張を組み立てた上で、事案に応じてアイデンティティ権の侵害を併せて主張するという方針をとっています。
DMによる被害は発信者情報開示の対象外
ここで注意が必要なのは、なりすましアカウントから第三者にダイレクトメッセージ(DM)が送られているケースです。
発信者情報開示制度の対象は、不特定の者が閲覧できる公開の投稿(ポストやプロフィール、アイコン画像など)に限られており、1対1のやりとりであるDMは対象外とされています。
もっとも、DMを受け取った第三者から、DMの内容を提供してもらえれば、公開投稿と併せて被害の実態を立証する資料として活用することができます。
まず何をすべきか~証拠の保全~
なりすましアカウントを見つけた場合、まず行っていただきたいのが、証拠の保全です。
投稿者がアカウントを削除したり、Xが凍結したりすると、投稿内容を確認できなくなり、その後の手続が困難となるおそれがあります。
スクリーンショットを撮る際は、①投稿のURL、②投稿日時、③アカウントのID(@から始まるユーザー名)、④表示名の4点が写り込むようにしてください。
スマートフォンの画面では投稿のURLが表示されないため、できればパソコンのブラウザから、URLがわかる形で保存していただくと確実です。
併せて、アカウントのプロフィール画面や、アカウントの開設日、過去の投稿についても保存しておいてください。
アカウントの開設日や過去の投稿内容は、投稿者を絞り込む手がかりになるだけでなく、後述する発信者情報開示命令において、どの期間のログイン情報の開示を求めるかを検討する上でも重要な資料となります。
反対に、なりすましアカウントに対してご本人が反論の投稿をしたり、相手をブロックしたりすることは、お勧めできません。
ご本人が反応することで投稿がさらに拡散してしまうおそれがあるほか、ブロックをすると相手の投稿を確認できなくなり、証拠の保全に支障が生じるためです。
なりすましアカウントの削除
Xへの通報(報告)で消えるケース・消えないケース
Xには、なりすましアカウントを報告するための専用のフォームが用意されており、本人確認書類を添付して申請することで、アカウントが凍結されることがあります。
もっとも、実際には、通報をしても「ポリシー違反は確認できなかった」という回答で終わってしまうケースや、何の回答もないまま放置されてしまうケースも少なくありません。
特に、パロディであることを示す記載があるアカウントや、ご本人と断定できる情報が少ないアカウントについては、Xの判断で凍結が見送られる傾向にあります。
情報流通プラットフォーム対処法による変更点
令和7年4月1日から、従来のプロバイダ責任制限法が改正され、「情報流通プラットフォーム対処法」(正式名称は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」。以下「情プラ法」といいます)が施行されました。
情プラ法では、Xのような大規模なプラットフォーム事業者に対し、削除の申出を受け付ける窓口を整備すること、削除の申出があった場合には一定の期間内に削除するか否かを判断して申出人に通知すること、削除の基準を策定・公表することなどが義務付けられました。
これにより、従来のように「通報したまま何の回答もない」という状況は改善されることが期待されますが、削除するか否かの最終的な判断はあくまでプラットフォーム事業者に委ねられています。
そのため、通報で削除されない場合には、次に解説する裁判手続を検討することになります。
投稿記事削除仮処分
Xへの通報で削除されない場合、裁判所に対し、「投稿記事削除仮処分」を申し立てる方法があります。
これは、投稿に違法性が認められる場合に、裁判所を通じて、Xの運営会社であるX Corp.(米国法人)に対し、投稿やアカウントの削除を直接命じてもらう手続です。
なお、仮処分の手続では、発令時に「担保金」というお金を法務局に供託(一時的に預ける)する必要があります。
担保金の金額は、投稿の件数などによっても変わりますが、おおむね30万円〜が目安です。
供託した担保金は、一定期間後に取り戻すことが可能で、これまで弊所で担当したケースでは、いずれも全額が戻ってきています。
なりすましアカウントの投稿者を特定するための手続
発信者情報開示請求
発信者情報開示制度とは、インターネット上の投稿により、名誉毀損や肖像権侵害などの権利侵害がなされた場合に、サイト運営者やプロバイダに対し、投稿者の氏名、住所、連絡先などの開示を請求できる制度です。
情プラ法第5条に基づいて行うことができます。
発信者情報開示請求が認められるためには、
①対象の投稿によって権利が侵害されたことが明らかであること(権利侵害の明白性)、
②発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること、
の2要件を充足する必要があります。
なりすましの事案では、「なりすましアカウントの投稿がご本人の投稿であると閲覧者に受け取られること」と、「その投稿内容がご本人の権利を侵害すること」の双方を具体的に主張・立証する必要があり、①権利侵害の明白性の要件が特に争点となります。
Xに対する発信者情報開示命令
Xの内部では、個別の投稿のIPアドレスは記録されておらず、その代わりに、対象のアカウントにログインした際の「IPアドレス」と「タイムスタンプ」が記録されています。
また、Xはアカウント登録型のサービスですので、アカウントに投稿者の電話番号やメールアドレスが登録されていることがあります。
そこで、X Corp.を相手方として、裁判所に「発信者情報開示命令」を申し立て、ログイン時のIPアドレス・タイムスタンプと、アカウントに登録された電話番号・メールアドレスの開示を求めます。
Xから電話番号の開示を受けることができた場合は、弁護士会照会を通じて、携帯電話会社から契約者の氏名・住所の回答を得ることで、基本的にこの時点で投稿者の特定が完了します。
通信会社(アクセスプロバイダ)に対する発信者情報開示命令
電話番号の開示が受けられなかった場合は、Xから開示されたIPアドレスをもとに、通信会社(NTTドコモ、ソフトバンク、J:COMなど。通常、「アクセスプロバイダ」といいます)に対し、投稿者の氏名、住所等の開示を求めることになります。
通信会社におけるログの保存期間は、通常3か月〜6か月程度と短いため、あらかじめ通信会社に対し、裁判が終了するまでログを消去しないよう「消去禁止命令」を申し立てた上で、通信会社に対する発信者情報開示命令の裁判を進めていきます。
なお、Xに対する開示命令の申立てと併せて「提供命令」を申し立てることで、Xから通信会社に対し、IPアドレス等の情報を直接提供させることができ、一連の手続を一つの裁判所で連続して進めることが可能となっています。
以上がXのなりすましアカウントに関する発信者情報開示手続の概要です。
投稿者が特定できるまでにかかる時間
結論から申し上げると、ご依頼をいただいてから投稿者を特定するまで、おおむね4か月から8か月程度かかることが一般的です。
Xに対する開示命令、通信会社に対する開示命令という複数の裁判手続を経る関係で、どうしても一定程度の期間を要してしまうのが実情です。
しかしながら、弊所では、類似案件の経験が豊富な分、手続の流れも熟知しているため、他の事務所と比較してスピード感をもった対応が可能となっております。
投稿者の特定に失敗するリスク
発信者情報開示という手続は、投稿者を確実に特定できるものではないことに注意が必要です。
特定に失敗してしまう主なケースとしては、
①ご依頼いただいた時点で、対象の投稿から長期間が経過してしまっている場合、
②漫画喫茶や駅、ホテル、カフェ等の公共Wi-Fiから投稿された場合、
③通信会社の内部事情により、対象の通信が特定できない場合
などがあります。
特に①については、通信会社のログの保存期間との関係で、なりすましアカウントを見つけてから3か月以内を目安に着手していただくことが望ましいといえます。
投稿者を特定した後の対応
損害賠償請求と示談交渉
投稿者の特定に成功した後は、投稿者に対し、慰謝料等の損害賠償請求と、なりすましアカウントの削除を求めることになります。
多くの事案では、投稿者又はその代理人との間で示談交渉を行い、合意書を取り交わす形で解決に至ります。
なりすましの事案における慰謝料の金額は、投稿の内容や件数、拡散の程度などによって大きく異なりますが、実務上は、発信者情報開示手続に要した弁護士費用を含めて、50万円〜100万円程度の幅で解決金が合意されるケースが多い印象です。
複数の裁判例において、発信者情報開示手続に要した弁護士費用を投稿者に請求することができる、とする判断が下されているためです。
示談書に入れておくべき条項
なりすましの事案では、金銭の支払いだけで終わらせるのではなく、
①なりすましアカウント及び全投稿の削除、
②今後ご本人になりすました投稿や、ご本人に関する投稿を行わないこと(再発禁止)、
③再発した場合の違約金、
④ご本人やその関係者への接触禁止、
⑤秘密保持、
といった条項を合意書に盛り込んでおくことが重要です。
特に、③の違約金条項を入れておくことで、再発を強く抑止することができ、万が一再発した場合にも、改めて損害額を立証することなく、あらかじめ定めた金額を請求することが可能となります。
刑事告訴という選択肢
名誉毀損や侮辱は刑事罰の対象にもなりますので、投稿の内容が悪質な場合には、投稿者を刑事告訴することもあります。
弊所では刑事告訴の対応も多数行っています。
解決事例~実名アカウントになりすまされ、解決金60万円で和解した事案~
被害の内容
ご依頼者様(個人の方)は、ご自身の実名と顔写真を無断で使用したXのアカウントを作られ、そのアカウントから、ご依頼者様が性的なパートナーを募集しているかのような内容の投稿を繰り返されていました。
ご自身でXへの通報も行いましたが、アカウントは削除されなかったため、弊所にご相談をいただきました。
手続の選択と経過
投稿内容は、閲覧者に「ご依頼者様自身が性的な募集をしている」と受け取られるものであり、名誉毀損及び氏名権・肖像権の侵害が明白であると判断し、直ちにX Corp.に対する発信者情報開示命令を申し立てました。
Xから開示されたログイン時のIPアドレスをもとに、通信会社に対する消去禁止命令と発信者情報開示命令を申し立て、ご依頼から約5か月で投稿者の特定に至りました。
和解の内容
特定後、投稿者との間で示談交渉を行い、50万円以上の解決金の支払いに加え、なりすましアカウント及び全投稿の削除、今後ご依頼者様に関する投稿を一切行わないこと、これに違反した場合には違約金として100万円を支払うことを内容とする合意が成立しました。
なりすましの事案では、一度削除されても、別のアカウントで再び同じ行為が繰り返されるリスクがあります。
そのため、本件では、解決金の金額を上げることよりも、再発時の違約金条項を確実に入れることを優先して交渉を進めました。
Xのなりすまし被害でお困りの場合、まずはご相談ください
以上、Xでなりすましアカウントを作られてしまった場合の対応についての解説でした。
X Corp.を相手方とする裁判手続は、申立ての方法や、送達の方法、権利侵害の主張の組み立て方、スピード感など、非常に専門的な知見が求められます。
また、なりすましの事案は、通常の誹謗中傷の事案と比べて、権利侵害の主張の組み立て方に工夫が必要となるため、経験豊富な弁護士に相談することが重要だと思います。
当事務所では、X上の誹謗中傷・なりすまし事案について、数百件の対応実績がありますので、Xのなりすまし被害でお困りの方は、お気軽にご相談ください。













